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私は紙切れを弟の頭に突きつけ、叫んだ。
「あんた、これ! 一体どういうことよ!?」
「ああ? 今度はなんだよ? ん――?」
振り向いた弟は、私が突きつけた紙切れをじっと見た。
「姉ちゃん。やっぱり、僕の部屋に忍び込んで、その紙切れを持っていったんだな?」
ばれてた。
「気づいてたの?」
「部屋の中に姉ちゃんの使ってる石鹸の香りが残ってた。それが不思議だったのさ。でも、さすがにそんなことがまた何度もあれば、バカでも気づくよ」
「はあ? そんなことで?」
同じ家にずっと一緒に住んでいるんだぞ。いまさら、特に意識する匂いでもないだろうに。なんだかおかしいぞ、こいつ。
「まあ、今、そこはどうでもいいわ。おかしいといえば、これ! この紙切れは何よ? 書かれている○○前夜の○○が翌日にホントの話になる。一体どういう仕組み?」
「それは――」
弟もよくわかっていなかった。ある日突然天井のどこかから、○○前夜と書かれた紙切れが落ちてくるようになって、○○が翌日にホントの話になる。そして、○○がホントの話になったら文字は消えてただの白紙の紙切れになる。何か起きなくても当日が過ぎれば文字は消えるそうだ。
「なあんだ。当たるも八卦当たらぬも八卦ってやつか。事故前夜って書かれてるけど、明日何も起きなければいいな」
「そうじゃないよ。紙切れに書かれている文字を読まず、当日が過ぎ去るまで放置していれば、○○前夜の○○は起きないようだ。僕は試しに紙切れが落ちてきても無視し続けてやった。その翌日に特別変わったことは何も起きなかった。でも、紙切れに書かれている文字を読んだら……姉ちゃんは、もうその紙切れに書かれている文字を読んじゃった。事故前夜と書かれているなら、前夜が終わり、翌日の朝がくれば、いつ事故に遭うかわからない……」
弟のおどろおどろしい説明。
私は手の中にある紙切れを改めて眺め見て、背筋を震わせた。
この紙切れに書かれている文字には神通力のようなものが宿っている。
読んでしまったら、書かれている出来事がホントの話になる。
それは私も何度も経験済みだった。
事故前夜。
今日の夜が終わり、明日の朝が来れば、私はその日のどこかで必ず事故に遭う。
「ど、どどどどうしよう? どうしたらいいの?」
クールな姉の威厳なんてもはやどうでもよかった。半泣きで私は弟に助けを求めた。
対する弟はクールに言い返してきた。
「誰だって明日の出来事を前日に知ってみたいよな。でも、嫌なことがある日まで知ってしまうんだから、ろくなことない。そこに気づかないといけなかった。だから、僕はこんな予告状みたいな紙切れのことは無視し続けていたんだ。事故前夜か。明日は擦り傷程度の事故であることを祈るしかないよ」
「ああ~。痛いのは少しでも嫌よ」
部屋の照明が一段暗くなった気がした。
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