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第4話 ユリウス3歳、専属執事をゲットした。
「いま言ったことは本当かい?」
「……いまゆったこと?」
ええと、ふたりが僕たちを助けてくれたことか?
それなら、もちろん本当だ。このふたりには感謝こそすれど、罰なんてとんでもない。
「はい。それよりも、とうさま。ふたりにけがは?」
「二人とも怪我はしていないよ、大丈夫」
父さんのその返答に、ホッ、と息を、つけば、父さんが僕の頭を撫でる。
「ふたりがけがしてなくてよかったです。とうさま、ふたりに、なにかおれいがしたいです」
「……そうかそうか」
よしよし、と僕の頭を撫でながら、父さんが笑う。
目尻、めっちゃ下がってるね。父さん。
ユーリ、気づいてなかったみたいだけど、父さん、めっちゃくちゃ、こども溺愛するタイプなんじゃね?
「御礼のことはあとで追々かんがえるとして。そうか、そうか」
「?」
うんうん、と何かに納得しながらすっごい頷いてる父さんに、首を傾げれば、父さんの身体が、ぐるんっ、とその場で回転した。
「ほら!!! やっぱり!!! 天使がいるよ!!! わたしたちの子は天使だよリリー!!!」
ばっ、と父さんが両手を広げた。
と思うと同時に、その腕に抱き込まれて、すりすり、と頬が寄せられる。
ちょ、ねぇ、あ、ちょ何?!
父さん、髭がしょりしょりしてる……てか、しょりしょりっていうか。
「っふふ」
「ん?」
「とうさま、くすぐったい」
髪質ならぬ髭質? が柔らかいせいで、ちょっと伸びてきてる父さんの髭がくすぐったい。
ふふっ、と笑いながら父さんに告げれば、目があった父さんが、一瞬動きを止めたあと、ニッ、と笑う。
あ、その笑いかた、もしや。
「それそれ」
「わっ、わっふ、ふふは」
ぐりぐりぐりぐり。
しょりしょりしょりしょり。
やっぱり止めてくれないんだ?!
ふひゃひゃひゃ、と笑い声をあげれば、ふいに父さんの手が止まって抱きしめられる。
「天使なうえに天才とか……すごいなうちの子たちは……そう思わないかい? お前たち」
「っはいッ!」
「ええ……!」
お前たち? と思った直後、メイジーとキグリの声が聞こえる。
「そんなわけで、お前たち。ユーリのことを頼むよ?」
「え?」
「は、え?!」
「……えっ?!!」
「何だいなんだい、うちの子に仕えるの不満かい?」
父さんの話の展開についていけなかった僕とメイジーとキグリが驚きの声をあげれば、父さんが少し唇を尖らせる。
「こんな天使めったにいないんだからな! わたしの家族以外!!」
……身内バカですか、父さん。
心の中で思わずそんなツッコミをいれれば、ユリウスも笑っている。
スッ、と手をあげたキグリに、父さんが「なんだい?」と発言を促す。
「……恐れながら、旦那様。私共は、今後も継続してこちらに置いていただけるなどという、充分すぎるほどに寛大な処置をすでに旦那様と奥様に頂いております。そのうえで、その……ユリウス様の……その……専属……など……もった」
「ぼくは、キグリとメイジーがいいです。とうさま」
「ぼっ、坊っちゃま?!」
「ユリウス様?!」
「そうかそうか!」
あ、思わず語尾にかぶせてしまった。
でも、「もったいない」なんて、言わせたくないじゃんか。
むしろ、もったいないって言うべきなのは、僕のほうだろうに。
父さんにしがみつきながら、横顔を見れば、ちら、とこっちを見た父さんと目が合う。
嬉しそうな、楽しそうな、そんな顔。
ゲーム本編だと、冷酷、とか、冷徹、とか。そんな冷たい印象ばかりを言われていた父さんだったけど、今の時点じゃ、さっぱりそんな部分が見えない。
すっごい表情豊かだよね、父さん。
この人のどこを見たら表情筋が死んでるって思うのか。マジで運営に問い詰めたい。
本当にどこをどう見たら冷徹冷酷な外相なんよ父さん……。
つい、ジィ、と父さんを見ていれば、父さんがにっこりと笑う。
あ、目尻に皺。
あー、くしゃ、って笑う系ですね、父さん。
そりゃモテるよな、って笑い顔ですね。
サッカーが大好きな某バンドのボーカルさんと同じ笑い方ですね。僕も一時期は憧れてギターの練習してみましたよ。ええ。まぁ見事に弾けなかったけどね!! 羨ましいな父さんのその笑い顔!!
僕も将来こうなるかなぁ。なったらいいなぁ。どうやったらそうなるのかなぁ。
あ、っていうかこの世界ってギターはあるのかなぁ。今から練習したら弾けるようになるかなぁ。
いや待てよ、その前に楽譜がなきゃ僕は無理で…………って、違うちがう。いまはそれじゃなくて。
瞬きを数回くり返したあと、キグリとメイジーを見やる。
泣きそうな、申し訳なさそうな、ふたりの顔に、ズキリ、と胸が痛む。
いいよな、ユリウス。ふたりが、僕たちの専属になっても。
問いかけた僕に、ユリウスは笑ってこたえる。
僕たちの答えはもう、決まっている。
「ぼくの、せんぞくになってほしいです。キグリ、メイジー」
そう言って手を伸ばした僕たちに、キグリとメイジーは、声を震わせて頷いてくれる。
そんな彼らの手に触れた瞬間、『しょーご』とユリウスが僕を呼んだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「何? ユリウスって、へ?! は?! なんで急に?!」
デカイ。
え、なにそれ、デカイ。
っていうか、なんかチラッと見たことある気がするんだけど、え、ユリウスって攻略キャラだったっけ?!
「こうりゃくキャラって何?」
「ええっと……なんていうか……あ、ええと、恋愛ゲームの恋愛対象にされる、ってやつで……下手したら一人対複数の恋愛になるというか……って、いやいやいや、そこじゃないでしょ。なんでデカくなってんの?!
「え、うーん。なんでだろうね? 気づいたらこうだったし、しょーごも分かんない?」
「流石にそれは分からんわ…… っていうかなにこれ。え、ねぇ、なんでデカくなったユリウスと僕が普通に喋ってんの???」
「んー、なんていうか……多分、しょーごの世界でいうバグってやつ? じゃない?」
「ええぇぇ……あ、いや、うん……まぁ……バグかぁ……」
小さかったはずのユリウスが、いつの間にか、すっかり大きくなって、何やらどこかで見覚えのある感じに成長している。
そして、たどたどしかったはずの言葉も、いまやすっかりしっかりと話していらっしゃる。
混乱しか生まれてないのだが。
え、マジで何これ。
「んーとね、たぶん、あくまでも此処はボクたちふたりだけの世界だと思うんだ。ボクとしょーごだけの世界」
「あー……うーん、なるほどね……。いや、分かるような、分からんような」
「誰にも邪魔されない、ボクたちだけの世界だと思う」
「誰にも……? っていうとアレか、バグ内に起きてるエラーのなかの中にある空間、みたいなやつか?」
なんかそんなような感じのシーン、映画で観たな。AIと争うやつ。
サングラスとロングコートの組み合わせ、めちゃくちゃ格好いいって思ったりした映画だったな。そういえば。
「誰にも見つからない、ボクたちだけの空間」
それが正しいのかどうかなんて全く分からない。
でもその表現がやけにしっくりくるような気がする。
「だって、此処って絶対に現実には存在なんてしないでしょう?」
「……でしょうな……っていうか……ちょっと冷静すぎじゃない? ユリウス君。キミ、3歳児だよね?」
「んー、ついさっき、急にしょーごの記憶をボクも見えたんだよね。だから、えーっとねー。しょーごがボクの感覚があるみたいに、ボクもしょーごの感覚が分かったというか……まぁ、そんな感じだから、こんなものなんじゃない?」
「いや適当かよ!!」
「分からないけど……って、そうだよ! しょーご! そんなこと話してる場合じゃないんだよ!!」
「え、何、どした?!」
ガシイッ、と成長したユリウスに両肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。
ついさっきまでちびっ子だったのに……
そんな残念な気持ちのまま、ユリウスを見れば、「しょーご」とユリウスが真剣な顔で僕の名前を呼ぶ。
「なっ、なんだよ、そんな顔して」
「あのね、ここ、ゲームの世界と同じなの。でも、ゲーム世界じゃなくて! じゃないけど、ゲームの世界じゃないんだけど、気をつけないと、ボクとディーと家族が大変なことになるんだよ!」
「ディーが将来、悪役令嬢になっちゃうって話だろ? いやぁそれは無いだろー? 絶対に運営のミスだって! ユリウスも見たんだろ? ディーはあんな縦ロールでも、我儘傲慢な令嬢でもな」
ないだろ?
そう続けかけた言葉は
「ディーが我儘令嬢になったのは、ボクが4歳になる直前に死んじゃったせいで家族がバラバラになったからなんだよ!!!」
「え? あ、はァァァ?!!!」
そんな衝撃的なユリウスの発言により、宙ぶらりんになったのだった。
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