第6話 「ほん○○こん○ゃくー!」

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第6話 「ほん○○こん○ゃくー!」

 さて。 「ユリウス様、丁寧に書けてらっしゃいまね」 「やった!」 「リディア様も、綺麗で読みやすい文字でございます。ですが、あと少し。こちらがほんの少し間違えていらっしゃいますね。ここの綴りは……」 「むうぅ……」  ただいま絶賛 乙女ゲー世界に転生中の今世の自分。  なおかつ、双子の姉であるディーは一応、悪役令嬢の設定。  ゲーム知識がある僕とはちがって、多分ディーは問答無用でチートなんだろうなぁ、って思ってたけど、案外そうでも無かったらしい。  ゲームの主役級キャラなのに、努力も必要なのか。  そんなことを思いながら自分の書いた文字を見つめる。  この世界の共通言語のレイヤ語で書かれた文字。  日本語で読めるけど、日本語じゃない言葉。  何もせずとも勝手に読めるのは、なんていうか……ゲーム補正? ある意味でチート? なのかもしれない。  ここ数日、記憶が残っているうちに、ゲームの内容をざっくり書き出して置こうと、寝る前に、一人になってからコソコソと紙に書きはじめた。  そして、今はまさにその作業中。  この世界のこと、これからのこと。  この国の名前はレイアギル王国。  シャムトラーゼ大陸の南南東の地方にあって、国土はまぁ……関東甲信越圏くらいのサイズ? か? 多分。  大陸全土のことまでは書いてなかった気がする。ああ、でもものっそい大きい国、帝国があるんだった。うん。  歴史も長い。  自然にあふれ、海と山に面し、一年を通して気候変動もゆるやか。  その国で、代々続くお金持ち、いわゆる貴族の子どもたちが多く通う魔法学校が、レイアギル王立魔法アカデミー。  魔力の使い方を制御したり、魔法の正しい使い方を学ぶために大昔に作られたのが、王立魔法アカデミーだ。  長い年月で貴族に魔力持ちが多くなったこともあって、貴族学校とも揶揄って呼ばれるくらいだけど、平民、いわゆる一般市民、じゃないや、一般国民にも魔力を持って生まれる子は時々いる。  まぁ、その『時々』が、まさに『初バー』の舞台の始まり、になるわけだけども。  貴族かつ魔力量の多いリディアは例外なく15歳になったら問答無用でアカデミー入学が決まっているし、僕も生き延びていたら入学できるだろう。  ……。  ……!!  魔法が使えるなんて、超ワクワクするじゃん!!!!  何なら今すぐにでも使いたい。魔法。  剣も習うことが決まっているし、あの彼が使ってた術技とか、超やりたい。やってみたい。再現できるかなぁ。  ……。いや、うん、まぁ。なんていうか。 「……やってみたいけど、とりあえずぼくたちはまず……」  4歳の誕生日を迎えることが直近の人生最大の目標なんだよなぁ……。  死んでしまったら、術技どころかアカデミーすら通えない。  せっかく魔法が使える世界に生まれたんだったら、使いたいのが元地球人でしょ?!  思わず叫びそうになるのを、必死で堪えながら、メモへと意識をむける。 「ええと、つづきつづき……」  えっと……なんだっけ。ああ、そうそう。  ディーが5歳の時に、ディーの優秀さと家柄から第二王子の婚約者候補に選出されるんだよな。んで、家のためにって忙しい両親と、アカデミーからなかなか帰ってこない兄二人。そんでもって、4歳の時にどうやらフェードアウトしてたらしい僕。冷え切ってた家族から、十分な愛情をもらえなかったリディアは、婚約者候補になった第二王子アルブレヒトに、すべての愛情を求めて、彼に執着。んで、15歳のアカデミー入学の時に、ヒロインのティーナとアルブレヒトが出会って。 「ものがたりがはじまる、と」  いつの間にやら貴族贔屓な考えを持って育ってしまったリディアは、ティーナのことも、自分の通うアカデミーに平民がいること自体を受け入れられなかったっぽいよなぁ。  魔力持ちかつ魔力量も、入学基準の対象になるんだから、貴族も平民も関係ないのはわかってたと思うんだけどなぁ。 「このへんも、きをつけていかなきゃいけないとこか」  ディーに変なことを吹き込むやつは、退場してもらわなければ。  平民だろうと貴族だろうと、学問の下では平等であるべし。  そんなことを思いながら、羽ペンを握る。 「それにしても……ほんとに、ねこがたロボットもびっくりなほんやくきのうだなコレ」  ある程度の文字を書き、疲れたので手を止めて書き連ねた文字を見返す。  日本語で書いた文字に、時々混ざるレイヤ語。  書いてる字はこの世界の字なのに、ものすごく不思議なことに、脳内では何もせずとも日本語として勝手に変換される。  もうそれはもう本当に勝手に。 「こんにゃくのあれみたいなアイテムすらいらない、と……」  もしかしたら、ユーリが生まれた時から僕もここにいたから自然に覚えちゃっただけなのかもしれないけども。 「このチートのうりょく、なにかにつかえたらいいんだけどなぁ」  家族の役にたったりするなら、なおの事良いのに。  そんな事をツラツラと考えていれば、唐突に強めの眠気が襲ってくる。  くっつきそうになる瞼を、どうにか堪えながら、パタン、とメモを所定の場所へとしまいこむ。  日本語で書いたから、誰も読めないだろうけども、逆にそれが怪しまれたりする可能性もある。  なので、誰にも見つからないように、引き出しの奥の奥に見つけた秘密の隠し場所へと、メモ書きを押し込む。 「……こどもはきゅうに、スイッチ、オ……」  急に、スイッチオフになる。  自分のことだろ、なんて、心の中でツッコミをいれながら、かろうじてベッドの中に潜り込んだところで、僕は意識をうしなった。
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