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一.あの頃
鬼門岳が笑っている。
黒褐色の山肌に鮮やかなつつじの紅。
曲線を描くように咲き誇るそのつつじが、
眉尻をさげている。
そんな、表情をうかべているようだ
正式な表記は『気門岳』
だが、いつしか市民はその山を『鬼門岳』と表現するようになった。
それは、怒り狂った鬼が炎を噴火した
19〇〇年6月にさかのぼる。
島河市民は忘れないだろう。
鬼門岳は半島の中央部にそびえる火山帯。
最高峰の万寿新山をはじめ、東の箕山から西の坂嵜山まで、
総計20以上の山々から構成される。
その山々が何事もなかったようにそびえたつ。
男が一人、その場所にカメラを手にし降り立った。
__「大丈夫か!大丈夫か悠斗!」
今でも遠くで叫ぶ声が耳に残る。
自分たちマスコミの過熱報道がなければ、
あの惨劇はなかったのかもしれない。
少なくとも友を失うことは___。
男は、天高く飛んでいくひばりの行方を目を細めて追いかけた。
いつまでも、どこまでも飛んでいくその姿を背に、
今では優しく微笑む気門岳、いや鬼門岳が雄大に笑っていた。
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