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五.これから
鬼門岳が笑っている。
あれから10年。
マスコミの過熱報道がなければ消防士の、
いや友の犠牲はなかったかもしれない。
10年の時の流れは、皆の心の奥底でくすぶる思いを
少しずつ和らげたのだろうか。
上手くいかないことを世間のせいにしてずっと
被害者意識で生きてきた自分。
鬼門岳よ、なぜ飲み込まなかった。
なぜ、こんな俺を飲み込まなかった。
なぜ、友を飲み込んだ。
男は、はっときづく。
この期におよんでも、鬼門岳のせいにしている自分の弱さや愚かさに。
なぜに自分は……。
立道悠斗という人間は……。
とっさに、あの時負った火傷の傷に爪をたてた。
この痛みは一生忘れてはいけない。
そう怒りに燃える自分の心と、あの日の火砕流が重なった。
まだ、終わっていない。
まだ、終わっていない。
被災した人たちの心の慟哭と、亡くなった人たちのために。
そして、古い友のため、その家族のために。
立道は自分の生きていく使命を教えてもらった鬼門岳を見上げ、
再び、シャッターをきった。
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