五.これから

1/3
前へ
/12ページ
次へ

五.これから

鬼門岳が笑っている。 あれから10年。 マスコミの過熱報道がなければ消防士の、 いや友の犠牲はなかったかもしれない。 10年の時の流れは、皆の心の奥底でくすぶる思いを 少しずつ和らげたのだろうか。 上手くいかないことを世間のせいにしてずっと 被害者意識で生きてきた自分。 鬼門岳よ、なぜ飲み込まなかった。 なぜ、こんな俺を飲み込まなかった。 なぜ、友を飲み込んだ。 男は、はっときづく。 この期におよんでも、鬼門岳のせいにしている自分の弱さや愚かさに。 なぜに自分は……。 立道悠斗という人間は……。 とっさに、あの時負った火傷の傷に爪をたてた。 この痛みは一生忘れてはいけない。 そう怒りに燃える自分の心と、あの日の火砕流が重なった。 まだ、終わっていない。 まだ、終わっていない。 被災した人たちの心の慟哭と、亡くなった人たちのために。 そして、古い友のため、その家族のために。 立道は自分の生きていく使命を教えてもらった鬼門岳を見上げ、 再び、シャッターをきった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加