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「パパ、いかないで!いっちゃやだ!」
子供ながらに、異様ならぬ気配を感じたのかもしれない。
それも、そのはず。
神崎光世にとってはいつもと変わらぬ19〇〇年6月3日 の初夏の夕暮れ前の事だった。
早番で上がった神崎は遅くなる妻の代わりに保育園へ息子の迎えにいった。
「今日は俺が夕飯つくるからな。」
「うん、上手に作ってね。」
手を握る息子の温かなぬくもりが伝わってくる。
それでも夕飯支度には少し早いかなと思いつつ、
自分の料理の腕前を考えれば妥当な選択だと思い、
ふと何気なく空を見上げた。
自宅のある方面の空が西から東へと褐色に染まり異様な雰囲気が流れ出す。
「火事?」
そう思った矢先に携帯の着信が入った。
「神崎、出動できるか!」
理由を聞き返すことさえも躊躇されるような
片岡消防隊長の焦りの声。
ただ事ではない予感を増長させた。
「すぐに行きます!」
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