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暗雲が立ち込める、
災害本部を立ち上げた消防署の一室。
片岡消防隊長の言葉が
重苦しい雰囲気に更に拍車をかける。
「今から全員徹底する……、いや一時避難だ。」
撤退という言葉は負けを認める。
それを嫌った隊長の思いが痛いほど、神崎には分かった。
ついに鬼門岳の北側にも溶岩が見え始め、
日に日に成長し形を変えながら頻発する火砕流。
崩落を繰り返し、覆い来る噴煙に昼間も闇となる
不気味さはたとえようもなかった。
あれから三日三晩、火砕流は勢いをまし、山々の村落を飲み込み、町付近まで近づいていた。
今後の二次災害を防ぐためにも消防隊は決断を余儀なくされた。
「隊長、避難は全員無事終わったのですか?」
神崎は尋ねる。
大きな声で、イエスという言葉を期待していた神崎達の気持ちは、
次の言葉を聞いてもろくに崩れ去った。
「いや、まだ山のなかに取り残された人達がいる。マスコミ関係の記者だ……。」
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