四.定点へ

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___俺はやれる。 俺はやれる。 自身の足で一歩、又一歩、 踏みしめて前へ進む。 体中は灰で覆われても、 手元にカメラだけはしっかり握りしめ、 あと少し、もう少し。 先に行ったあの記者達は今頃どうなっているのか。 いや、先をこされたら負けだ。 そう思った刹那、けたたましいサージが、立道の耳を奪った。 時が止まる。何も聞こえない。 気づいた時には倒れていた。 もう駄目か_____。 どれくらいの時が立っただろう。 うっすら遠くから、サイレンの音が近づいていくる。 「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」 誰だ____。 誰だ_____。 遠い記憶。 今では懐かしい学び舎が見える。 「おう、悠斗!一緒にサッカーやろうぜ!」 「俺はいいよ……。」 「そっか、お前宿題しているのか?」 「あぁ。」 「宿題は作文、将来の夢か……。 俺さ、将来ぜったいこの町を守る消防士になるんだ。」 「お前、よく恥ずかしくもなくそんな戦隊モノみたいなセリフはけるな。」 「ばーか。俺が消防士にならなかったら、火事で亡くなった天国の父ちゃんも浮かばれないだろ。」 「光世、おまえってやつは……。」 「悠斗、お願いがある。 お前、文章書くの得意だから、大きくなったら 俺の事書いてくれよ。町を守るお助けヒーロー的なさ!」 「ばかやろう、そんなの自分で書けよ。」 「へっ、俺たち二人できっと夢かなえようぜ。なっ、悠斗。」 光世____。 ばかやろう____。 「しっかりしてください!」 あんた、誰だ__。 「大丈夫ですか!」 あんた、__。 最後の言葉だけは、はっきり聞こえた。 「悠斗!立道悠斗、大丈夫か!」 ____あいつ、俺の事を覚えててくれて……。 「神崎さん、あと2名山の奥に入っていったそうです!」 「分かった!」 久しぶりに会って会話がたった一言かよ……。 昔の友が火砕流に立ち向かっていく。 その最後の雄姿を見送りながら 立道は意識が遠のいていった。
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