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___俺はやれる。
俺はやれる。
自身の足で一歩、又一歩、
踏みしめて前へ進む。
体中は灰で覆われても、
手元にカメラだけはしっかり握りしめ、
あと少し、もう少し。
先に行ったあの記者達は今頃どうなっているのか。
いや、先をこされたら負けだ。
そう思った刹那、けたたましいサージが、立道の耳を奪った。
時が止まる。何も聞こえない。
気づいた時には倒れていた。
もう駄目か_____。
どれくらいの時が立っただろう。
うっすら遠くから、サイレンの音が近づいていくる。
「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」
誰だ____。
誰だ_____。
遠い記憶。
今では懐かしい学び舎が見える。
「おう、悠斗!一緒にサッカーやろうぜ!」
「俺はいいよ……。」
「そっか、お前宿題しているのか?」
「あぁ。」
「宿題は作文、将来の夢か……。
俺さ、将来ぜったいこの町を守る消防士になるんだ。」
「お前、よく恥ずかしくもなくそんな戦隊モノみたいなセリフはけるな。」
「ばーか。俺が消防士にならなかったら、火事で亡くなった天国の父ちゃんも浮かばれないだろ。」
「光世、おまえってやつは……。」
「悠斗、お願いがある。
お前、文章書くの得意だから、大きくなったら
俺の事書いてくれよ。町を守るお助けヒーロー的なさ!」
「ばかやろう、そんなの自分で書けよ。」
「へっ、俺たち二人できっと夢かなえようぜ。なっ、悠斗。」
光世____。
ばかやろう____。
「しっかりしてください!」
あんた、誰だ__。
「大丈夫ですか!」
あんた、__。
最後の言葉だけは、はっきり聞こえた。
「悠斗!立道悠斗、大丈夫か!」
____あいつ、俺の事を覚えててくれて……。
「神崎さん、あと2名山の奥に入っていったそうです!」
「分かった!」
久しぶりに会って会話がたった一言かよ……。
昔の友が火砕流に立ち向かっていく。
その最後の雄姿を見送りながら
立道は意識が遠のいていった。
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