就業150時間

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そこは土蔵を改装した造りで、暖かい裸電球の中間照明が映し出す陰影豊かな落ち着ける飲み屋だった。何やら一家言ありそうな方々が談論風発しており、酒一杯、うやうやしく注げば、そこは学舎となった。人間が面白かった。社会では余り役に立ちそうじゃなかったけど、知恵の坩堝。そこは熱気で溢れていた。酒を酌み交わす楽しさを教えてくれた。一升瓶は、人に渡さず、抱きかかえて管理する事も。 そこで、隣り合わせた。珍しく一人で飲んでた時に。 文化干しと干物・一夜干しの違いって知ってる?だったか、サバ水煮缶グルメだったかの話題に食いついてきた。お互いのスーツ姿にも好感を持ち、初めて会ったとゆうのに和んだ。 彼が、切り出した。 愚痴だとわかっちゃいますが、酒呑んで頃合い、受け止めて見せましょうぞ、さぁ、どうぞ。あっしも、そうっした。 「・・・就業時間150て、多くないですかねぇ~?」 !!・・・然りっ。 7日行って2日休みの交代勤務。休日出勤・残業4時間、当たり前。手取りは、こうして飲んだくれる程度には、残るたぁゆうもののだ。 「150は、勲章よぉ~!」 まぁまぁ、飲め飲め、酒盃を重ねて、彼は続ける。 「日が明るいうちに、帰りたいですよねっ♪あっ、こうして飲むのは、別としましても。」 ?!・・・何だ?この違和感は? 「趣味に時間かけたいんすよねぇ~。土日だけじゃ足んなくてね。平日の就業時間、削れねぇかと画策してるんスが、なかなか上手くいかないっすわ・・・」 彼は、ふっと、苦く笑った。 就業150時間以下と、残業150時間超では、話にならん。理不尽だ。 彼とは、友達に、なれん。
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