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大切なのは君だけ
星の見えない夜。街のネオンが湿った空気にゆらゆら揺れている。街行く人々はみな、自分たちにしか興味がない。目の前で起きている出来事に興味はない。
「待てっ」
長めの前髪を振り乱して、男が駅前から遠ざかる道を走っていた。
「えっ、あんた誰?!」
追いついた男はスーツ姿の中年の腕を掴む。
「その子、返してくれる?」
掴まれた腕の反対側、引きずられるように歩いていた少年。立ち止まった中年の腕から崩れ落ちる。男は手に持ったハットを投げ捨て少年を抱き、「なにしてくれてんの……?」と、中年の胸ぐらを掴んだ。
「その子連れて行けよ、あとは俺らで何とかする」
後ろを追いついてきた栗色の髪の男が、中年をヘッドロックの状態で押さえている。
少年の口元がゆっくり動いて、発した言葉がわずかに聞こえる。
「のどか……」
──お前に何かあったら、俺はこの男をぶちのめしてもまだ足りない。
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