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壊れてしまった砂の城と同じように
夏の終わり、バイト先で彼女は突然和の前に現れ、傘を差し出した。
「ワタシ、和さんのそばにいたいんです」
「俺、つきあってる子、いるけど?」
「構わないですよ?」
突然の豪雨。誰もが足早に通り過ぎる中、彼女だけが笑顔だった。
和よりもひとつ歳下で、誰からも可愛がられる子。叶衣の存在にも臆さない。所謂『妹属性』。
あまりにも近すぎると、距離感が掴めなくなる。そこにいるのが普通で。いなくなることは考えられない。
─────
『家族じゃイヤ』
『そんなのズルイ』
和の意識とは真逆に、連続したメッセージを残して彼女は消えた。
しばらくして。
彼女が自ら灰になることを選んだと、和は知った。付き合っていた男に騙され、裏風俗に売られていた。逃げるためには、それしかなかった。
彼女のわずかな持ち物には、和の写真と名刺。
冷たい部屋。
確かに彼女はそこにいた。
──そうだ、俺が彼女を殺した。無自覚に、相手を傷つけた。彼女は俺の、自分勝手の犠牲者だ。本当に相手を思うなら、どこかではっきり止めるべきだった。
─────
俺はまた同じことを繰り返しているのかと、何度も寝返りを打つ。
──蒼生は彼女と同じじゃない。
信じる気持ちがせめぎ合う。
目を閉じても眠れない夜を過ごす。
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