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夜に溶け、朝に果て
「嘘でしょ死んだなんて……そんなこと」
再びタオルケットを握りしめて、蒼生は呆然としている。
「まだ大学生のとき。その子は俺に叶衣がいるって知ってたから、まさか俺に期待、とか思ってなかった」
立て膝で座る和に近寄り、蒼生はぺたんと座り込む。膝に置かれた和の左手に触れる。
「でもそれは和のせいなの?」
「違ってもさ……。警察に呼ばれて、最後、彼女に会って……。俺は自分を許せない、いまでも」
壁にもたれた和の横に並び、蒼生はそのまま身体を預けてくる。
「同じことしてんじゃないかって、何度も智に言われたよ」
「そんなことないよ。俺は死のうとは思ってないし、あてつけるなんて」
「だけど。お前がしたことはほとんど自傷行為でしょ。だからお前が帰ってこないって聞いて、本当に怖かった。もしお前までいなくなったら……」
「間違ってなんかいない! 俺、ここにいるもん。そうでしょ」
膝に置かれた蒼生の手が身体を揺するってくる。伸びた前髪が揺れて、目が露わになる。
「俺は、お前が大切。家族みたいに」
「みたいに……?」
「家族よりも」
口元が呆れたように緩む。蒼生の手の甲を細長い指がとんとんと叩く。
「俺ね、知らない人とするのだって怖くなかった。誰と何したって同じ。触られれば気持ちいいし、口ですればイかせることもできる。それが、急に怖くなったの。誰も俺を大切にしてくれない」
話しながら、蒼生は和の膝に顎を乗せこちらを見る。
「それに」
「うん?」
「和にそんな思いさせることはもうしない、しないよ」
「約束できます?」
「……ごめんね、俺が癇癪起こしたからだよね」
オレンジ色の間接照明がベッドの反対側で天井を照らしている。逆光になった蒼生の顔も、近づけば涙ぐんでいるのがよく見えた。
「ん……」
抱きついてきた蒼生は、返事をしかけた和のくちびるを塞ぐ。触れた頬が濡れている。ゆっくり蒼生の体をベッドへ降ろし、改めて強く抱きしめた。
「お前は好きも、愛してるも全部セックスすることでしか表現できないんでしょ。でもひとの愛はそれだけじゃない。それを、知ってほしい」
「うん。和がおしえてくれるんだよね」
トロンとした眠そうな目で素直に返事をすると、蒼生は本当に可愛い。
「でも、それまでずっと、和に恋してていい?」
「それはダメっていえないでしょ」
目を閉じた蒼生の額に軽く口づけると、細い腕が伸びてきて首に絡みつく。今夜はそのまま。和も腕を背中へ回して、耳元へ唇を寄せる。
「おかえり……」
逃げられない微睡が2人を包む。
カーテンの隙間から射す月明かりが白んで、もうすぐ明けの明星が寄り添う。
朝がやってくる。
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