きっとここが俺の帰る場所

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きっとここが俺の帰る場所

 蒼生がエプロンの紐を結びながら2階から降りてきた。学校が夏休みになり、朝から店へやってくることも多い。 「ドラッグストア行く時にうちの歯ブラシも買ってきて。もう交換時期でしょ」 夜まで店を手伝ったり宿題をして、和の家に泊まることも増えた。蒼生の父親は相変わらず夜勤で、あまり接点は持てない様子だったが、休日には『霖雨』へやってくる。  昼過ぎに宅配便が集荷に来て、蒼生が荷物を渡す。宛先に店名が書いてあり住所は福岡だ。 「福岡、遠いね」 「うちの豆が博多まで飛んでくって、なかなか夢あるな」 「あっ……あの話が実現したってこと?」 「まだサンプル。向こうで叶衣が受け取って調査するんだと」 蒼生は入り口で伸びをしている。和はカウンターの中で昨日仕込んでおいたコールドブリューの味を見てから、蒼生にもアイスコーヒーを出した。 「お前もここから巣立ってけよ」  生きていれば、年を追うごとに世界が広がる。いまは狭い世界で行き場がないと思っても、自分の居場所を作れるようになるのは自明だ。きっと誰にいわれなくても蒼生はここから飛び立っていく。  振り向いた蒼生は不満げに唇を尖らせ、カウンターから和に向かい身を乗り出す。 「そんなのまだずっと先だよ」 ──陽が眩しい……  外は晴空。ここにいていい。雨は降っていなくても。
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