前夜屋

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 やがて、風船をふくらませるのに疲れて、ボスと男は眠ってしまった。 僕は眠り込んでいる二人を見ながら考えていた。  前夜屋に就職したのは、悪事に手を染めるためではない。幸せな気持ちを多くの人に届けることができる……、そんな素晴らしい仕事だと思ったからだ。 (辞めよう)  二人が寝ている間に、僕は逃げ出すことにした。  男を残していくのは気がかりだったが、ボスは寝る前に、男と自分を手錠でつないでいた。 手錠の鍵はボスの胸ポケットの中だ。いくらボスが無神経だといっても、胸ポケットを探られれば目を覚ますだろう。 さらに銃はボスのズボンの後ろに挟んである。やはりボスを起こさずに引き抜くのは難しい。  つまり、鍵も銃もボスを起こさずに奪うのは不可能だ。 (ごめんなさい……)  僕は地下室の出口で振り返り、手を合わせた。
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