前夜屋

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 実はあの日、彼が吸ったのは、詐欺師の結婚前夜缶などではなかったのだ。  死ぬ間際の気分が詐欺師の結婚前夜では可哀そうだと思って、逃げ出す直前に、虹色のラベルを張り替えて、結婚前夜缶とボスの大富豪前夜缶とをすり替えておいたのだ。  だから、彼が本当に吸ったのは、ボスの大富豪前夜缶で、調子に乗ったボスが吸ったのは、詐欺師の結婚前夜絶望缶だ。入れ替わった缶詰を吸ったせいで、彼が助かったのだとすれば、偶然とはいえ……。 「僕が助けたも同然じゃないか!」  僕の叫び声は液晶モニターの向こう側には届かない。彼は高らかに宣言した。 『ですから逃亡中の共犯者の彼に、今、ここで懸賞金をかけます。彼を捕まえて連れてきた人物に、一千万円差し上げます! もちろん捕まえた共犯者は、その後、警察に突き出します!』 「そ、そんな!」 『ただし、スタートは明日とします。なぜなら、共犯者の彼には今夜、風船百個に息を吹き込んでもらうからです。 そして、もし……、共犯者の彼が、日本全国一億二千万人の追っ手から逃げ切り、百個の風船を私のところまで持ってくることができたら、やはり一千万円で買い取りましょう! その場合はもちろん、彼は無罪放免とします。
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