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力なく水を口に含む男とは対照的に、ボスは缶ビールに口を付けて、ゴッ、ゴッ、と景気よく喉を鳴らした。プハッと息を吐くと、手の甲で口を拭い、ビニール袋に手を伸ばした。
「ビールを飲んだら、腹が減ったな。今、何時だ?」
「ええと、七時半です」
「うしっ」と、ボスは掛け声をかけて「じゃあ夕飯にするか」と、ビニールからお弁当やおにぎり、サンドイッチなどを取り出して、床に並べた。
「お前も食え」と男に促す。「その膨らませている途中の風船は、目玉クリップで空気がもれないように留めておけよ」と指示をする。
「はい……」と、男は素直にうなずいて、言われたとおりにΩの形の大きなクリップで風船を留める。そして、お尻で床をこするようにして、ズルズルと移動してきて、おにぎりを手に取った。
「おい、なにも一番安い梅干しを選ぶことないんだぞ。好きなのを食べろよ。最後の晩餐なんだから」
「食欲がなくて」と、男はボソボソと返事をする。返事もしたくない気分だろうが、しなければ何をされるかわからないと怯えているのだろう。
「無理もないよなあ。お前の命は明日までなんだから」
男はさすがに返事はせず、ただ黙ってうつむいた。
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