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「あのう。でもこんなもの、需要なんか、あるんでしょうか……?」と男はちらりと部屋の隅に目をやった。
天井のコンクリートに埋め込まれているLEDライトが、スポットライトのように無数の風船を照らしている。すべて男が膨らませたものだ。
風船にはひとつひとつ、ラベルが貼ってある。ラベルには、十六時間前、十五時間前、十四時間前と書いてある。そして男が先ほど膨らませていた風船には、 十三時間前というラベルが付いている。
「需要は大ありだ。安心しろ、安値じゃ売らねえ。うんと高値をつけてやるから」と機嫌よく言う。
「私はべつに……」と男が力なくつぶやく。
それはそうだろう。むしろ自分の死を代償に、他人が儲けるなんてイヤなはずだ。
「お前が前夜缶を知らないのも無理はない。確かに庶民には手が出ない代物だからな。金持ち市場にしか出回っていないんだよ。
お前が自分の死が無駄になるんじゃないかと心配するのも無理はねえよな。
よし! じゃあ、大サービスだ。お前が死ぬ前に、なんでもひとつだけ、前夜缶を味わわせてやる」
「え、本当ですか?」と男が顔をあげた。目にわずかながら期待の光が灯る。
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