前夜屋

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「男に二言はねえ。さあ、どんな『前夜の気分』が味わいたいんだ?」 「ねえ、ボス。以前から思っていたんですが、なぜ前夜の気分なんですか? 当日の気分の方がいいじゃないですか」と、僕は口を挟んだ。 「あのなあ。思い出してみろよ。遠足の前の日、楽しみで眠れなかったりしなかったか? 運動会の前の日、デートの前の日の夜。ワクワクドキドキがピークなのは、なんてったってイベントの前夜なんだよ」  男は顔を輝かせて、おにぎりにかぶりついた。これから味わう前夜缶を思い浮かべたのだろう。 「当日も楽しかったですよ、僕は」 「わかってねえなあ。考えてみろよ。楽しい遠足の真っ最中に、風船を膨らませなきゃならない。どういう気持ちになる?」 「楽しさがふっとんで、イライラだけになりますね」 「そうだろう? そんな気持ち、誰も欲しくないんだよ。日頃から自前で似たような気持を味わっているんだから」 「なるほど……」
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