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この機械に、イベント前夜の気分を吹き込んだ風船を仕込むと、空気に含まれた気分の成分が抽出、凝縮されて、缶詰に充填される。
そして出来上がった缶詰をあければ、いつでもどこでも詰め込まれた気分を味わうことができるのだ。
「誘拐殺害前夜缶、いくらで売ろうかなあ」
「ボス、今の気分を風船に吹き込んだらどうでしょう? 億万長者になる前夜の気持ちが採取できますよ」
「いいこと言うな! じゃあ、弁当食べたら吹き込むか!」
ボスはニンニクの芽がたっぷりと乗った焼肉弁当をかき込んだ。
「缶詰が臭くなりませんか?」
「大丈夫だ。脱臭装置は万全だからな」
男は泣き止む気も失せたようで、グズグズと鼻を鳴らしている。
「おい、泣くなよ。お前が死ぬ前に、どんな気分だって味わわせてやるから」
「じゃあ……、結婚式の前の日でお願いします」と男は言った。
「おとなしく風船を膨らませるなら、結束バンドをほどいてやるぞ。風船を膨らませるのに、風船を支える手伝いをするのも面倒だし」
男はコクリとうなずいた。どうせ逃げられはしないのだ。死ぬなら楽しい気分で死にたいと思ったのだろう。
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