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詐欺師は、自分が風船に吹き込むのは楽しい気分ではないと、当然、自覚していたが、結婚前夜の息であることには間違いない。
詐欺師にとっては、むしろ詐欺でもなんでもない真っ当な仕事だったし、しかも高額報酬だったからだ。
出来上がった結婚前夜缶は、当たり前だが不評だった。不思議に思ったボスが、詐欺師を問いつめたことから事情が判明し、初めてで唯一のリコールをしたという、いわく付きの前夜缶なのだ。
「これだって、結婚前夜缶で間違いないだろ?」とボスは得意気に言った。
(死ぬその瞬間に絶望的な気持ちを味わわせようとするなんて、詐欺師よりひどい……)と、僕は思った。
虹色の缶詰は、いかにも貴重なもののようにうやうやしく、前夜缶製造機の上に置かれた。
男は缶詰を眺めてはせっせと風船をふくらませる。
ボスも億万長者前夜缶を作ろうと、せっせと風船をふくらませている。
二人の気持ちは真逆だが、どんな気持ちも鮮度が大事なので、僕は前夜缶製造機に休まず風船を放り込んでいく。
結婚前夜の気分が味わえると思って、彼が期待をふくらませているに違いないと思うと、僕の胸は罪悪感で膨れ上がって、はち切れそうになるけれど。
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