運命を塗り替える

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「いや……です」  精一杯答えた少女の答えに、ニコルはぴしりと固まった。 「…………あんた物語クラッシャーだよな。そこは普通『はい』って返事するところだぞ」  ニコルは不満そうな顔をしながらも頬を引きつらせた。その時少女を握っていた手の力も緩み、少女はすぐさま自分の手を胸に引き寄せて、喰いかかった。 「だ、だって! そう言っても、あなたがまだ私を騙してニーナ様の気を引きたい可能性も残ってるし! さっきのゲームの話で言うと、そのまま付き合っても結局はニーナ様を好きになって私が捨てられる未来だってあるし。そ、それに、そのニーナ様を物語に沿って好きになるってことにならないように私を使ってるって可能性だってまだ残ってるんだから!」 「……じゃあ裏を返すと、それ全部抜きなら俺でいいってこと?」 「そ、そうじゃない! 勝手にいいように解釈しないで!」  ここが図書館だという事も忘れて少女は叫んだ。その声を聞いて誰かが近づいてくる音が聞こえてくる。ニコルも聞こえたのか、諦めたようにやれやれと肩をすくめた。 「まあいいや。俺は本気だし。あんたを落とすのに時間はかかるなって覚悟してたよ。今まで得た『ニコル』スキルも使ってあんたを落としてやるよ」 「さ、さっきまで俺は俺とか言ってたくせに……」  さっきまでいろいろ苦しい過去を語っていた男はどこいったのか。もう目の前にはいつもの見知ったニコルがいた。その変わりように少女は頬を引きつらせた。しかしそんな少女をお構いなしに、ニコルは椅子から立ち上がり、帰ろうとしていた。 「それとこれとは別。好きな女落とすのに使えるもんは使うさ」 「は、はあ!? き、嫌い! あなたなんて絶対好きにならない!」 「おーおー。言ってろ言ってろ」  そんな会話の応酬を繰り広げながら、ニコルは先に帰ろうと、少女の横を通り過ぎようとした。    その時、少女の頬に柔らかいものがあたった。 「…………な!?」  少女は一瞬何が起こったのかわからなかったが、振り向いたときにニコルの顔が近くにあって何をされたのか理解した。  頬にキスをされたのだ。  そう思った瞬間少女は顔を赤くして、キスされた頬に手をあてる。  その反応を楽しむように、ニコルがニヤリと口角をあげた。 「絶対あんたの口から好きって言わせてやるよ」  ――……絶対に好きになるものか!    そう少女は心の中で叫ぶ。  物語に翻弄されるのも、ニコルに翻弄されるのも御免だ。  少女はずっと自分の意思で動いてきたのだ。それを誰かの思惑なんかで踊らされてたまるか。  少女はとても負けず嫌いなのだ。  閉館を知らせる音楽が、二人の戦いのゴングのように鳴り響いた。  しかし、その後数ヶ月にわたるニコルの猛烈アタックで、少女が完全に落ちてしまったことは言うまでもない。  少女は悔しそうな顔をし「参りました」と消え入りそうな声で精いっぱいの虚勢を張りながら、改めてニコルに告白してきたという。
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