運命を塗り替える

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 ニーナたちの話を聞いてから少女は物語に負けないことを目標にしている。そのための勉強だ。半年なんて一瞬なのだから、今のうちに多くの勉強をした方がいいだろう。  少女は図書館に入り、いつもの席に座る。この席はあまり人が来ないので、集中して勉強ができるうえ、少し単語を覚えるのに小声で復唱しても、あまり気づかれない絶好の場所だ。そして少女は持ってきた本に目を通して、ノートに書きこもうとペンを走らせた。 「まーた勉強?」  すると目の前の席に誰かが座る気配を感じたと同時に話しかけられ、少女は顔をあげた。  そこには一人の綺麗な男性がいた。  サラサラとした少し長い灰色の髪、柘榴のような赤い瞳は長い睫毛で縁どられており、その左の目元には泣きほくろがある。制服は着崩すように胸元を恥ずかし気もなく見せている。女性の誰もがその人を見てほぅっと息を漏らすような色気のある美男子だ。そんな男性が少女の前に座っており、女性なら卒倒しそうな優し気な微笑みを浮かべて少女を見ていた。  しかし少女はその男性に不快そうに眉を潜めた。 「なに? 何か用事?」  そう言うと男性は、おどけたように肩をすくめた。 「つめてぇな。前はもっと砕けて話してくれてたのに」 「あなたみたいな男に構ってる余裕ないの。邪魔しないで」 「てかそれ半年後の進級試験の範囲じゃん! よくやるなぁ」 「……」  男性は少女の話を聞かずに勝手に本を覗いていた。  この男性はニコル。  何を隠そうこの『乙女ゲームの攻略対象者』で『軟派な同級生』ポジションだ。  少女はこの『攻略対象』であるニコルと奇跡的に知り合いだった。  きっかけはこうやって図書館で勉強していた時だった。すると突然、ニコルから少女に「わからない問題がある」と恥ずかしそうに話しかけてきたのだ。  最初は少し面食らった。だって軟派な男で有名であるニコルが、まさか勉強を真面目にしていたことも驚きだし、いつも見せる色気な男とは違い、恥ずかしそうに聞いてくるその顔は普通の男性そのもので、少女は少し驚いたのだ。  それがきっかけでよくニコルとは図書館で話すようになった。  ニコルは話してみると気さくで、話し上手だし、噂で聞くような女癖の悪さなんてものを微塵も感じさせない誠実さが垣間見えた。よく話しかけてくれるようになったし、ニコルは少女に優しかった。  だから、少女は少しニコルのことを好きになりかけていたのだ。  だってこんな美男子が、図書館で二人で仲良く話していれば、好きになってもおかしくない。少女だって女だ。恋ぐらいしてしまう。  けれど、その恋も一瞬で冷めてしまった。  ニコルがニーナの『攻略対象』だと知ってしまったからだ。  ニーナが誰と付き合うのかわからないが、今のところ『攻略対象』殆どが全員ニーナに恋愛方面で好意的だ。  どうせニコルもニーナのことが好きになるんだ。  だってこの世界はそういう風にできているのだから。  だから、ニコルもこの世界の物語の一部だと思うと、芽生えかけていた恋心も一気に冷めてしまったのだ。  
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