運命を塗り替える

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― ―――― ―――――――――  しかし少女は目の前で座り続けるニコルからずっと視線を感じていた。もうこれが三十分ほど続いている。何も言わずにじっと見つめられるのに、とうとう落ち着かなくなった少女は溜息をつきながらペンを置き、顔をあげた。 「……ほんとなんなの? そんなじっと見られるとやりにくいんだけど」 「んー、いや、さ……」  珍しく歯切れの悪い返事に首を傾げる。ニコルは後頭部をかきながら少女から目を外し、顔を少し赤くして言いにくそうにしている。普段学院で見るニコルからは絶対に想像できないくらいの、初々しい反応。でも少女からすれば図書館でよくみるニコルなので、何の違和感もないわけだが。  この前までこうやって冷たくしても、遠慮なしに話しかけてきていたくせに。なんなのだ、今日は。  すると、様子のおかしいニコルに少女は最近よく噂に聞く、あることを思い出した。 「もしかしてニーナ様のこと?」 「……」  そう言うとニコルは驚いたように目を開いていた。どうやら図星のようだ。  少女ははぁと溜息をつきながら、机に肘をついてニコルを見た。 「ニーナ様、最近第一王子のユーデア様といい感じって噂だものね。でも、私に相談してもいいアドバイスなんかできやしないわよ」  そう。ニーナはどうやら第一王子のユーデア王子を対象に選んだようだ。よく中庭でお昼ご飯を一緒に食べている姿が目撃されている。そのおかげか最近二人の距離が近いと女性たちの間で話題になっていたのだ。  もしどうすれば間に割り込めるのかとかいう恋愛相談なら、少女にはどうしようもない。ニーナは王子を選んだのだから。邪魔しようが何をしようが、あの二人の結末は決まったも同然だろう。少女は、自分の関わらないところで、物語が動いているのならどうでもいいのだ。  そんなことを考えていると、ふとニコルは真顔になって少女を見返した。 「……もしかしてさ、俺がニーナを狙ってるとか思ってる?」 「違うの?」  楽しそうに笑いながら、ニーナに「おもしれー女」とか言っている姿を見たので、てっきり好きなのかと思っていた。  その姿を目撃した時は、少なからずショックだった。「ああやっぱりニコルは攻略対象なんだ」って確信した瞬間だったから。  少しだけ痛む胸を無視して、少女はニコルの反応を見た。しかしニコルはニーナのことが好きなのがバレて焦っている様子でもなく、照れた様子でもなく、真剣な表情で少し考え込んでいた。それなりに一緒にいることが多かったが、こういう真剣な顔をしているニコルはあまり見ない。どうしたのかと首を傾げていると、ニコルは不意に考え込んでいた顔をあげた。 「そう、見えたのか?」  声色も真剣そのものだったので、少女も正直に答えることにした。 「うん。だいぶ特別扱いしてるようには見えたわよ。よく楽しそうに話しているのも廊下で見かけるしね」 「マジか。……やべぇな」 「?」  何がやばいというのか。  別にニコルが、ニーナを好きになるのは『攻略対象』なのだから仕方がないというのに。  少女は知っているからこの物語に反発心を抱いて抗っているが、ニコルは違う。知らないから、抗えないのも仕方がないのだ。少女一人だけでも抗って見せるさ。
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