運命を塗り替える

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 そう心の中で再度やる気がみなぎっているころ、机に置いていた少女の手を不意にニコルが握った。 「なあ」 「何?」  突然握られたことに驚いてニコルを見返した。するとニコルは少し顔を赤くして、けれど真剣な瞳で、見つめてきて。真っ赤な柘榴の瞳が、少女の姿を映す。その瞳があまりに綺麗で、少女はぼうっとニコルを見つめた。  そしてその綺麗に整った唇がゆっくり動く――…… 「俺は、あんたのことが好きなんだけど」 「はあ??」  少女はニコルの言葉に思いっきり顔をしかめた。思った以上に大きな声が出てしまった。  いや、待て。わけがわからない。この男は一体何を言っている。少女が抗おうとしたせいで、何かしらにこの『乙女ゲーム』に不具合が起こっているのか。  少女の反応に、ニコルは先ほどの真剣な表情を消して、顔を引きつらせた。 「いや、はあ?って。告白に対する反応がそれかよ」  ありえないというように顔を引きつらせながら、ニコルは少女の反応に文句をつけた。それに少女はむっとした。 「それが本気だとして、私のどこに好きになる要素があるっていうのよ。あなただってこんな時、笑顔で応えてくれる可愛げのある女の子の方がいいでしょ?」 「……」  そういうとニコルは押し黙った。  本当に自分で言うのもなんだが、こんな女好きになる男なんていないだろう。  負けず嫌いだし、捻くれているし、プライドだって高い。しかもさっきまでニコルに対して冷たい態度をとっていたのに。急に好きだなんて言ってくる方がおかしいのだ。 (まあ私だって、好きだって言ってくれる素敵な男性がいつか現れるって夢見たことぐらいあるけど……)  けれど少女には別の夢があるのだ。  この学院を卒業した後、領地に戻り、領民たちの生活がもっとよくなるように、この魔法の力で様々な道具を開発するのだ。  今の少女の家の領地はお金がないせいで、与えられている農具が古く、設備だってよくない。良い作物だって作れず、お金だって生み出せない。そのせいでいつも領民たちには苦労をかけてばかりだった。両親と一緒に魔法を使って色々作っては見たものの、どれも失敗ばかりだった。  しかし魔法学院に行けば、そこは魔法の最先端が学べる場所だ。きっとこの領地を救う何かがあるはずだ。  だからこそ少女はこの学院で魔法を学び、将来領地を治める人間として、日々励んでいるのだ。 (領民たちのためなら、私は独身だって、必要だったら政略結婚でも構わないわ)  少女は改めて決意をする。努力のすべてはここに帰結するのだ。  信じられないと態度で示すために、少女はニコルに握られた手を引っ込めた。すると、少女の様子を見たニコルはふぅっと重い息を吐き、佇まいを直した。 「……わかった。白状する」 「何よ」  ほらやっぱり。きっとからかっていたのだ。まさかニコルにここまで侮辱されるとは。ニコルとは仲がいいと思っていたが、どうやら違っていたらしい。  まあでもしかし、一応まだ友達だ。言い訳ぐらいは聞いてもいいだろう。  少女は腕を組んでニコルが言い訳するのを待った。  しかし彼が口にしたのは、待っていた言い訳ではなかった。
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