運命を塗り替える

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「転生してもう五年かぁ」  そんな言葉が聞こえてきて、少女は思わずピタリと足を止めた。  ここはある国のある魔法学院。  この国には魔法が存在する。魔法は何もないところから水や火を出したり、風や土を操ったりと常人では不可能なことを可能にする力だ。それは生活に豊かさをもたらすと同時に絶大な力ゆえに人々に危険をもたらす力でもあった。だからこそ魔法は限られた者にしか扱えないよう貴族のみが魔法の利用を許可され、魔法学院で力の使い方を学ぶのだ。  そんな魔法学院に通う男爵令嬢の少女は、勉強をしに裏庭へと来たのだが、そこで先ほどの話し声を聞いて足を止めたのだ。裏庭へと足を踏み入れる前に止まったので、裏庭からは死角になっていて、おそらく少女が来たことには気づいていないだろう。  いや、そんなことよりも――…… (転生?)  聞き覚えのない言葉に首を傾げる。少女は何冊か本を抱えており、その中に辞書があったので、パラパラとページを捲って調べてみるが、その単語の意味は載っていなかった。辞書に載っていない言葉などあるのだろうか。そう思ってさらに首を傾げていると、続けて会話が聞こえてきた。 「そうねぇ。あんたがその『ニーナ』の身体になってからそんなに経つのね」 (ニーナ?)  どうやら裏庭には二人いるようだ。しかし今はそんなことよりも覚えのある名前に、少女はこっそり裏庭を覗き見る。そこには黄金色のふわふわとした髪とくりくりとした大きな瞳を持つ可愛らしい顔立ちの女性と群青色の真っ直ぐな髪と少しつり目で近寄りがたい雰囲気を持つ女性が二人で話していた。そして先ほど名前に上がったニーナというのが、可愛らしい顔立ちの女性のことだ。  ニーナはこの魔法学院でも有名な女性だ。公爵家のご令嬢で、その性格は心優しく、身分や魔法なんか関係なく接するその姿はまさしく聖女だと言われ、皆に慕われている。そしてそのニーナと一緒に話しているのが、ニーナの親友のカレンだ。  けれどなんだ。『ニーナの身体になった』だって?  どういうことだ。  そんなことを考えていると、裏庭での二人の会話が進んでいく。 「本当にカレンがいてよかったよ~! 私一人だったら何にもできなかったもん」 「まあ事故の時、一緒にいたからね。そうなるのも不自然じゃないわ。でもまさか私がヒロインの親友ポジションに転生できたのは奇跡よね」 「うんうん! 最初は全然この世界の生活も文化にも慣れなかったから、ほんと心強かった!」 「あーそうよねぇ、この世界って結構身分差っていうの? そういうの激しいしね。前の世界じゃそういうのなかったもん」 「庶民とか貴族とか魔法とかさ。そんなので同じ人間なのに差別するなんて、絶対おかしいよ。ゲームしてた時から疑問だったのよね! その人を見てないのに、身分だけで勝手に判断するなんて! 可愛そうじゃない!」 「あんたのそういうとこ、好きよ」 「……」  そう言って二人で笑いあっている会話を、少女はずっと聞いていた。  わからない単語が多かったが、思い出話を語っていたこともあり、おおよそだが彼女たちの言っていることは理解することができた。おそらくこういうことだろう。    ニーナとカレンはどちらも別の世界からきた『転生者』ということ。転生者と言うのは少女なりの解釈だが、元々ある肉体から魂が抜けて、別の肉体に宿るということ。つまり元々の『ニーナ』の魂は肉体から抜けて、別の世界から来た『女の子』が『ニーナ』の肉体に宿ったということだ。それはカレンも同じだろう。  そしてもう一つわかったこと。それはここが『乙女ゲームの世界』だということ。  乙女ゲームという単語がよくわからなかったが、彼女たちの会話から、少女なりの推測を立ててみた。  よく小説に出てくる登場人物に憧れを抱いたり、実際に恋愛感情を抱いてしまう人物がいると聞いたことがある。きっとそれに近いものだろう。そのゲームとやらに出てくる登場人物と疑似恋愛をするもの、それが彼女たちの言う『乙女ゲーム』だと少女は解釈した。  正直なんだそれ、と自分でも思うが、けれどこうでもないと彼女達の話に説明がつかないのだ。
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