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第三章
七海が外房線からの成東行きに乗り間違えてから三週間が経ち、梅雨が本番となった。
都賀での待ち合わせの日も、曇天模様で弱い雨が降っていた。
七海は、自宅のある西千葉から千葉駅に向かった。
岡原からは、都賀駅は千葉駅の7、8、9、10番線から発車する各駅停車で二駅と教わっていた。
七海は、千葉駅の9、10番線がある成田線ホームにたどり着いた。
駅のアナウンスは、
「10番線の電車は都賀、四街道、佐倉、成田方面にまいります…」
と告げていた。
この電車なら都賀に行ける、七海はそう思い乗車した。
電車に乗ると、七海は夢中になっている小説「星を継ぐもの」を読み始めた。ひとつの謎が解明されると、また新たな謎が現れる。夢中になって読んでいるとストーリーに引き込まれていった。
車内放送を聞き逃すほど、熱中して読んでいたが、二駅目で降りることは忘れなかった。
しかし、降りた駅は四街道だった。
七海は気付いていないが、乗っていた電車は快速電車で都賀駅は一駅目に停車していたのである。七海は二駅目で降りたので、都賀駅を通りすぎ、隣の四街道駅に着いていた。
正しいと思って降りた駅が都賀ではなかったので、七海はパニックになった。千葉駅から二駅目で降りたつもりだけれど、もしかしてまだ一駅目だったかな。そう思い、七海は後続の電車に乗った。成田線回りの銚子行きだった。
同時に岡原に電話する。しかし、電源が入っていないというメッセージが流れた。LINEも送るが既読にならない。七海は連絡をあきらめた。
七海が乗った電車の次の停車駅も都賀ではなかったので、下車しなかった。しばらく乗車していたら、成田駅に着いた。
七海は明らかにおかしいと気付き、千葉方面行きの電車に乗った。久里浜行きという神奈川県まで行く快速電車で、都賀にも停車するとアナウンスがあった。
結局七海は八時過ぎに都賀に着くが岡原はもういなかった。
七海が自宅に着いた頃、岡原から電話がかかってきた。
「都賀で三十分ほど待ったけれど、会えなかった。気付いたらスマホの電池が切れていた。すまない」
岡原は続けて言う。
「だけど、七海さんどうして来れなかったの」
「千葉駅から二駅目で降りたら四街道という駅でした。それから後続の電車に乗ったら成田に行ってしまって。そのあと、都賀まで引き返してきました」
「ああ、千葉駅から快速に乗ったんだね。言い忘れてたんだけれど、快速だと都賀は一駅目なんだ」
「そんな大事なこと、言い忘れないでください」
七海はさらに続ける。
「私が都賀で降りられなかったのは悪いですけれど、岡原さんも毎回連絡が取れないのは困ります」
「次回は必ず連絡を取れるようにするから、あと一回だけチャンスをください」
と、岡原は懇願する。
「私も悪かったわ。今回も水に流しましょう。次回はいつにしますか」
「二週間後の火曜日はどうかな」
と、岡原は提案した。
「私はその日、先輩の学会を見に有楽町の東京国際フォーラムに行きます。夕方終わるので、七時頃には都賀駅に着けると思います」
またしても、おいしいカレー屋さんはお預けとなった。次回が最後のチャンスのようだが、果たしてどうなるのだろうか。
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