エピローグ

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エピローグ

 フェリーの周りにカモメが飛び交っている。  真夏の太陽のもと、爽やかな海風が心地よく、七海と岡原は東京湾フェリーのデッキでまばゆい海を見つめていた。  フェリーは突然、長い汽笛を二回鳴らした。どうしたのだろうと思ってふたりとも前方を見ると、すぐ近くを大型貨物船がすれ違っていった。 その後も、フェリーは久里浜を目指して航行する。 *  デート約束の当日、待ち合わせ場所は西千葉だった。岡原は車を出していた。  七海は助手席に乗り込み、ドライブなんて大学生になってからは初めてだと、少しはしゃぎ気味だった。  車は京葉道路に入り、南下して館山道へ進む。高速を降りたのは富津金谷(ふっつかなや)インターだった。  数分で海沿いの国道に出てさらに南進する。十分ほど走ると、東京湾フェリーの乗り場が見えてきた。 * 「以前、『海にとてもあこがれがあります』と七海さんは言っていたよね。僕は、『大地に根を張って育って欲しいから』という理由で、陸と名付けられたと話したよね。海にあこがれがあるなら海の上というシチュエーションが良いだろうし、また大地に根を張っている房総半島や三浦半島を見られる場所を考えたら、この場所に思いが行き着いた。ここが『海と陸』のデート。その答えなんだ」 39d432cc-a3a2-4a2a-b509-d68971ce9301  七海は潮の香りを感じながら、岡原さんは軽そうだったけれど、実はロマンチックな人なんだなと思い、素敵な景色に見とれていた。  岡原は言う。 「七海さん。僕は七海さんのことをまだあまり分かってないけれど、芯が強いと思うし、一緒にいて楽しい。『星を継ぐもの』という共通の好きな本もあるし、今後はいろいろなところにデートしたり、お互いが読んだ本の感想を伝えあったりして過ごしていきたい。これからも七海さんと一緒にいたい。だから、ふたりで海と陸の接点となる港を作ろうと思っている。よろしくお願いします」 「私も岡原さんのこといいな、と思ってた。海と陸の接点となる港を作るというのはつまり、恋愛するということだよね。あたたかい港を築いていけたらいいね。こちらこそ、よろしくお願いします」 「良かった。とても嬉しい、大切にするよ」 *  こうして、東京湾フェリーの上で、海と陸がつながった。  この海と陸の港がどのような輝きを放つのか、まだ誰も知らない。きっと、大地に彩りを添え、夜の空にはきれいな流れ星がきらめいていくのだろう。
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