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プロローグ
木々の緑が濃くなる季節。爽やかな夕暮れが訪れようとしている。大型連休が終わって間もない火曜日の昼下がり。午後の授業が休講になったので、岸本七海は千葉そごうに来ていた。
友人からの評判が良かった小説を買いに、そごう九階の書店へやって来た。
探していた本は、少し時間がかかったが、SFの文庫本コーナーで見つけた。宇宙服を着た人物と、周りに細かくメカが描写された表紙。タイトルは「星を継ぐもの」。
七海は、SFはほとんど読んだことがないが、初心者でも楽しめるという友人の言葉から、買うことに決めていた。楽しみで、ワクワクしていた。
七海は本を買ったあと、自宅のある西千葉に帰ろうとした。そごうを出て目の前に、京成千葉駅がある。
七海は極度の方向音痴で、どの電車に乗ってきたかも分からなくなっていた。おまけに、極度の機械音痴でもあり、大学生になってから使い始めたスマホは、電話とLINEしか使い方が分からなかった。そのため、スマホで乗るべき電車を調べることができなかった。
とりあえず、京成千葉駅の運賃路線図をみるが、周辺に西千葉駅はない。この駅ではないと判断し、少し歩いて右手にあるエスカレーターを登る。
今度はモノレールの駅だった。これは明らかに違うと思い、再び歩き始める。
連絡通路を通るとJR千葉駅の改札口に出た。
ここで、七海は困惑した。路線ごとに設けられた電光掲示が六つもあるのだ。
長野県で生まれ育った七海は、今年の春、千葉大学に進学し西千葉で一人暮らしを始めた。
そのため、千葉には土地勘が全くない。おまけに方向音痴なので、どの電車に乗ったら良いか分からず、途方に暮れていた。
そんなとき、人当たりが良さそうな少し髪の長い茶髪の男性が声をかけてきた。
「迷ってるなら案内するよ」
七海は、この男ちょっと軽そうだな、大丈夫かな、と思いつつ、
「西千葉まで行きたいんです」
と、伝えた。
男は、電光掲示を見て、
「2番線からだいたい十分後に発車するよ」
とこたえた。そのあと、
「今度一緒に食事に行きませんか。おいしいお店知ってるので」
と、七海を誘った。男は七海の許可を得てスマホの操作をリードし、氏名と電話番号、LINEを交換した。
男の名前は「岡原陸」という。
岡原はアーモンド型の目に鼻は高く、優しそうな顔立ち。でも、全体的な雰囲気は軽い感じがした。
対して七海は、色白で目鼻立ちのキリッとした美しい顔立ちだった。
七海は連絡先を交換して良かったか心配になった。しかし、乗った電車は無事に西千葉駅に着いたので、少し安心し男を信じてみる気になった。
でも、連絡先を交換するとき、岡原が電池がほとんど残ってないと言っていたので、うっかり者なのかもしれないと思った。
今日、岡原に連絡するのはためらわれたので、しばらくしたらおいしいお店に案内してもらうように連絡してみよう。
そう思いながら、家路についた。
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