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もう外に出ちゃったし、そのまま行っちゃう方が早いよね。
私はそう納得して、隣の部屋のインターホンを鳴らした。
しばらくすると足音が聞こえて、ガチャっと扉が開く。
「あ、レナさんこんにちは。肉じゃがを作ったんです、け……ど……」
……言葉は最後まで続かなかった。
ドアの向こうから顔を覗かせたのは、レナさんではなかった。
その人物を見て、10秒ぐらい思考が停止する。
「あの、えと……私は、その……」
頭がぐるぐるして言葉が上手く出てこない。
「ご、ごめんなさい間違えましたっ!」
私はどうにか早口でそう言って踵を返す。そして慌てて自分の部屋に駆け込んだ。
え?え?
だって有り得ない。
鍋を持っていない方の手で額を押さえて、ドアの向こうにいた人を思い出す。
さらりとした黒髪に、色白の肌。少し冷たそうな印象を与える目と感情の読めない細い眉。
思わず人目を引いてしまうような美形で、私の通う高校の制服を着た男子。
今日も由梨から散々話を聞かされた、私たちの学校の王子様。
どうしてレナさんの部屋から──
──遠坂くんが出てくるの!?
私は一度落ち着こうと深呼吸をした。
さっきは「間違えました」と言って逃げてしまったけど、隣の部屋に行くだけで間違えようがない。
えっと、まさか知らないうちにレナさん引っ越して代わりに遠坂くんが引っ越してきたとか?
……いやいやまさかね。レナさんが何も言わずに引越しちゃうなんて。
私はまたそっと玄関を出た。
足音をたてないようにそっと隣の部屋の表札を確認する。
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