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“佐藤”
良かった。間違いなくレナさんの部屋だ。
でも、それならさっきは何で遠坂くんが……。
中の様子を知りたくて、そっと耳をすませる。
と──
ガチャり、と音がして目の前でドアが開いた。
そこにはやはり遠坂くんが立っていて。
「何か用?」
相変わらず感情の読めない表情で私を見つめている。
「えっとあの、隣の部屋の者なんですけど……この部屋って……」
ど、どうすれば。
遠坂くんのことは由梨から毎日のように話を聞いて一方的に知ってはいたけど、こんな目の前で見るのは初めてだ。
一人で慌てふためいていると、部屋の奥から聞きなれた女性の声が聞こえてきた。
「ひろ〜?誰か来たー?」
あ、レナさんの声だ。
私はほっとして部屋の中に目をやる。
声の主は玄関まで出てきて、私の姿を見るとパッと顔を輝かせた。
「ありりんじゃん!わー何か久しぶりー」
ボサボサの髪を一つにくくり、大きなメガネをかけた、完全にオフモードのレナさん。
彼女は私が持っている鍋に目をつけ指さした。
「ねえありりん。このお鍋はもしかして」
「あ、はい。肉じゃが作りすぎたのでおすそ分けに」
「やったぁ!入って入って!」
は、入って?
渡すだけ渡したら帰るつもりだったのに、機嫌良く部屋の中に消えていったレナさんにそう言いそびれてしまった。
遠坂くんも何故か玄関先に立ったままじっと私を見ていて……気まずい。
「入れば?」
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