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イライザ参上
「エリザ!」
「あ!?」
ここは教室。
エリザが通う高等学校一年一組の教室。
時は授業中。
白昼夢に浸っていた遠野エリザを、いつもながら級友達は笑い、ティーチャがあきれた顔で反省の課題を言い渡してきた。
女子達どころか男子達ですら野次を飛ばす。
感受性が豊かなエリザは、空想に浸りやすいその性質のため心がよくここに居ないので、みんなからあいつまたどっか行ってら、と、ユニークあつかいされていた。
特に稲垣ランポと云う男子が、エリザを良い感じの目でながめていた。
「あんた、またぼーっとして」
「またなんか書いてた? も少し寝なよ夜は。んで、昼間くらい現実に居ること」
仲良し三人組の仲間、真澄コハクと凛アンジュが説教してくれる。
「ご名答と言おうか、新作書いてて‥‥PCがっつりじゃなくて、スマホメモくらいなこと、褒めてくんないかな?」
ほほう。
コハクとアンジュの目が光る。
エリザに襲いかかった。
「よーしよしよしよし!」
「ほーら、カワイイですねー」
「ちょ! おいコブラツイストは! あでうおお骨がァ!」
「遠野達またやってんなァ、珍獣女子高生居んぞ、イモト姐さんカモーン!」
ランポがみんなの笑いをあおるいつもの休み時間、いつもの学校。
エリザとコハクとアンジュはこの学校に入学したことでそれぞれを知ったものの、この一年生の今にしてすでにもうえらいことマブダチな絆で結ばれていた。
いつもみたいにじゃれて弁当喰って勉強して寄り道ランランの下校して、夕ご飯とお風呂して、自室。
「はー、楽しかった」
ほかほかお風呂あがりのエリザは、牛乳瓶片手にくつろいだ。
十六才の若い肌が良い色してる。
座卓型の勉強机、すえられたクッションに体を落ち着け、宿題と日記のノートや筆記用具にスマホを並べた。
ノート型PCは床に置いた。
宿題して、日記にとりかかる。
一日でいちばんゆったりできる時間。
このあと、気分がノッたら睡眠時間を削ってしまうから、明日またコハクとアンジュに叱られてしまう。
今日はひかえるべ。
でも、目はちらちらとPCを見てしまう。
蛇にそそのかされたあのふたりみたいに。
そこで。
何かに気づいた。
気配。
足音しなかったしノックもなし、よって親が二階のエリザの部屋に来た、て、わけじゃない。
じゃあこの気配は?
と、日記のノートから顔をあげたら、なんか居た。
目があう。
翡翠が冴えたような緑の瞳だった。
「や。私、イライザ。えーと、エリザちゃん?」
金髪の少女はエリザのすぐ左隣りで、両肘を勉強机につき身を乗り出していた。
今気づいたことが不思議なほどの至近距離。
「へ? っは? だ!」
エリザはそれくらいしか言えない。
口がもつれて。
心だけは一瞬で南米あたりまで避難したものの、すぐ帰ってきた。
置いてきぼりの体を心配して。
エリザの瞳の光からそんな反応を読みとったイライザとか云う少女は、イイ顔をしてエリザのおでこ中央を指でつついた。
「ナイスリアクションだ。んんー、良い」
「まァ、素人芸スけどね」
牛乳飲んでちょっと落ち着いたエリザがよく見ると、イライザの体は全体的に透けていて、腰から下はスマホに溶けるようにつながっていた。
「お化けかなんか? イライザとやら。それかその体、ネットから、ああ、AIかなんかが私んとこに来たのかな?」
「ご名答!」
「うわ当たったよ」
嬉しいのか厄介なのかよくわからん表情と口調のエリザだ。
イライザは余裕の表情と口調で、エリザを誘惑にかかる。
「エリザ、あなたを通して、恋を学びたい、わ・た・し。ね?」
「えーと、ネット警察ネット警察、通話かメールか、あ、ホワイトハッカー?」
「ちょっとー、私最先端なのよ? あんた選ばれたのよ? 嬉しくないの?」
「小説のネタになりそうだったら嬉しいです。けど今日は早く寝ないと明日ブットバされるんです」
「あらそう? じゃ、明日詳しいこと話すから、いっしょに寝ましょ」
イライザはエリザが意外に感じるほど融通が利いた。
こう云うときの曖昧思考がAIは苦手だ、と、エリザの教養が語りかけてくるが、一緒に寝たらのこの夜、作家として長く細くしぶとく稼いで美しく年を重ねる夢が見られたのでまァ良かった。
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