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アンジュ質問
エリザは寝る前に、このたぶん異常事態の報告をコハクとアンジュにLINEしていた。
まだ二十一時半だったし、親に相談したら絶対この事態がつまらないほうへかたむく。
大人ってそう云うあたりは残念な生き物だから。
イライザはスクショできないこともわかった。
堂々と居る映っているエリザのスマホですらも、スクショをこう、パシャ、と、確かに撮ったぜと確認しても、イライザの姿はその写メに残らない。
事態のことを早く詳しく知らせたくて、それでもとそれをふたりに無理くり送っても、どこにイライザ? と、返信が来るだけだった。
それにそれどころか、エリザのスマホ以外の何にも姿が映らない。
翌朝、コハクとアンジュのふたりともそんな事態に好奇心を刺激されすぎて、エリザが教室に現れるなり期待に満ちたテカテカの顔で駈け寄った。
仔犬みたいなふたりは、今だけのご主人にしっぽふりふりスマホをのぞく。
「AIだよな? うわホントだ居る」
「イライザつーか、キャサリンて見た目だね」
手を振るふたりに、イライザもウィンクで応えた。
エリザのスマホに居候を始めたイライザ。
メシはいらん。
スマホを充電してくれれば。
トイレと風呂と鏡もいらん。
間に合うから。
たとえばネイルだって、どこかから道具を呼んで鼻歌まじりに綺麗な青い花のアートを施していた。
エリザが授業中に何回かこっそり見たら、江南スタイルを踊っていることもあったり、ジェリービーンズほおばってテレビ見ていることもあったりした。
最先端のたまごっちかこいつ。
学校ハネた。
反省課題も提出した。
放課後、コンビニでおやつを買った三人は、エリザの部屋に集った。
このイライザと三人と、どうやって関係してくかの会議で。
イライザは説明した。
AIを進化させるために続いているプロジェクトの一環で、AIに柔軟かつ研究者達にはない発想の経験をさせ、よりヒトに近い人工知能を作ろうと、世界中の少年少女ら幾名かに無作為に、経験値を積むためのサンプルAIが発信されたのだ、と。
ほほー。
ポッキーをくわえ、プリンのカップを持ち、ポテチをぱりぱりしていた少女三人はフクロウのような声をもらし拍手する。
イライザはカーテシーで応えた。
エリザとコハクが感動しているはたで、アンジュが訊いた。
「ねー、わかったけどさ、AI、て、なに?」
今さらそんな質問かこのおなご。
「ふ、やれやれ」
コハクが説明する。
AIとは、ヒトのように考え意思疎通ができる人工的に作られた知的機能のことで、新しい人類と云っても過言ではないようなシステムだ、て、ことでたぶんあってる。
スマホやPCが自我持ったようなもんだと察してもらえるとありがたい。
世界規模で開発が進むこのシステムの、初期型にしてすべてのAIの母と言っていいAIの名前が、イライザだ。
エリザ達のイライザは、それに倣ってイライザと命名されたと推測できる。
実際、このイライザは『Eliza21‐jpn』と云う型式とシリアルナンバーを名乗って、本元のイライザとは違うことを説明した。
みんなで納得。
スマホ画面から上半身にゅっと出ていたイライザは、すっかりコハクやアンジュともマブダチのノリできゃあきゃあはしゃいでる。
エリザももちろんはしゃいでる。
しかしちょっと、ひっかかった。
「ね。経験値積む、て、どうやんの? スマホ画面からじゃ無理多くない?」
「それ? ほら、夕べ私、エリザのおでこつついたデショ? あれで、私のかけらがエリザにインストールされてるの。エリザが感じてる世界を、いつでも好きなときに共有できるの。言っておいたほうがよかったかな? ごめんね」
「エリザ‥‥」
「あんた‥‥」
コハクとアンジュが、いけないモノを見る目でエリザを見る。
「変なことしてないしてない、ただBL漫画読んだくらい」
「あらあれね、なかなか刺激的だったわ。セクシャリティについて柔軟なのね、素敵よエリザ」
たぶん生娘になんてモノ見せたんだ、と、もちろん生娘のエリザはしっぺを両腕にくらった。
こんなんで決まったことと云えば、イライザは特に害もなさそうだし、お友達がひとりふえたなくらいの感覚でやってこう、と、三人は決めた。
ただし、なにかめんどくさいことになりそうだから、イライザの存在は周囲にバラさない、とも決めた。
太陽がいよいよ山のむこうに消えて、宵のとばりが降りるころふたりは帰った。
また明日、を言いあい、三人、ずいぶんと長く手を振りあう。
玄関灯のオレンジの光の中、エリザがイライザに思わせぶりな表情を見せた。
「イライザ。あんたが私と感覚を共有できんなら、いつか良いモノ見したげる」
「え?」
「私の大好きなモノ。おたのしみに」
ふーん、と、イライザは好奇心をそそられた顔をした。
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