コンピュータ研修

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 コンピュータ研修が始まった。  泉はパソコンは苦手ではないが堪能ではない。直樹の方がよっぽどできる。  どうしてもわからないところがあってまごついていると、直樹がそっと教えてくれた。  またいつものごとく助けてもらってしまった。  泉は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。  昼休憩になった。研修は午後もある。 「水瀬サン、昼持ってきた?」  直樹が泉に話しかけた。 「ううん、別に…」 「じゃ、飯食いに 行こーぜ」  直樹は泉の返事も待たずにさっさと立ち上がって歩きだしてしまった。  泉は慌てて後を追った。  会場からすぐ近くに定食屋があった。 「ここでいっか」  直樹が呟いた。 「うん」  泉はうなずいた。  研修の間の昼休憩はそこまで時間に余裕がない。  店に入り向かい合って席に着き注文をとった。  直樹が泉に目を向けた瞬間に、 「ごめんなさい!」  泉が頭を下げた。やはり謝るしかないと思った。  直樹は一瞬キョトンとしたが、 「この間の、うちまで送ってくれたこと」  泉が言うと直樹は「ああ」と言った。 「もっと早く謝らなきゃと思ってたんだけど、あまりにやらかしが酷くて気まずくて…」 「やらかしねぇ…」  直樹が呟いた。 「それに彼女さんに申し訳なくて。本当にごめんなさい。」  泉は必死の形相で言った。  しかし直樹は泉の顔を見つめてフッと笑った。 「あーそれ。…彼女とは別れたよ」 「え?!い、いつ?」  泉は驚いて大きな声を出してしまった。 「今年の三月…卒業式の後だっけか」   えっ全然知らなかった。そうだったの? 「あ、私も…」  泉は浩一と別れたことを言いかけると、 「知ってる。杉崎と去年別れたんだろ」   と直樹がしれっと答えた。    直樹も同期なので浩一とは面識があった。  何故か二人は全く仲良くなかった。 「な、何で知ってるの?」 「中山先生が言ってた」    彩也香先生めー。お喋りなんだから。 「えっと あの…」 「別に気にしてないからいいよ。水瀬サン、酔っぱらってたんだし」 「ほんとにごめんなさい」 「まぁ。でもあんなんじゃ手を出されてもモンク言えないし。今後あそこまで飲まないほうがいいんじゃね? 」 「おっしゃるとおりです…。」  泉は小さくなって答えた。    直樹はそんな泉を見て吹き出すと、 「でもあんなに酔っ払ったの初めてだろ?…何かあったのか?」と聞いた。  まさか佑哉のせいとは口が裂けても言えない。 「べ、別に一学期が終わって気が抜けたから」 「ふーん」  直樹の返事には含みがあった。 「はい、お待ち」  注文した料理が机の上に置かれた。 「ま、食おうぜ」 「あの、おごります…」泉が言った。   直樹は笑いながら「ずいぶん安くあがったな」と呟いた。 「えっ?」 「何でもないよ。いただきます」 「いただきます」  泉は直樹とわだかまりがなくなって心底ホッとした。  研修が終わり家に帰ってからもう一度直樹のことを考えた。  紫原先生半年も前に彼女さんと別れていたんだ。全然知らなかった。    結局私、紫原先生の彼女さんのことよく知らないんだよね。聞いても先生殆ど話してくれなかったし…。  え、じゃあ紫原先生フリーってこと?恋愛対象として考えていいんだ。  ち、ちょっと私それじゃあまりにも節操なくない?今橋先生に彼女がいたからはい、次紫原先生っていうのは。  とりあえず紫原先生と気まずいのを解消されたことを良しとしよう。  でも、私もっと早く紫原先生が彼女さんと別れていたことを知っていたらそもそも今橋先生のことをいいなと思ったんだろうか。    泉は自分の気持ちがわからなくなってしまった。
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