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花火大会
「すごい人…」
駅に着いて泉は思わず呟いてしまった。
「だな…」
直樹も驚いている。
「花火会場の港はここから歩いて十五分ぐらいかかるかな」
「じゃあ出店で何かつまめるもん買っていくか」
直樹が提案した。
「それがいいと思う」
泉も賛成して二人で並んで歩き出した。
歩きながら泉はチラッと直樹を見た。
直樹は背も高いし、イケメンだ。今日の私服も良く似合っている。
紫原先生とは今まで学校の行き帰りや休日出勤などで二人きりになったことはあったけど、こうやってデートをするのは初めてかも。
それに紫原先生、学校ではクールで硬派なのに私には優しい笑顔で結構話してくれるのよね。
泉は男性と話すのは得意ではなかったが、直樹は違った。初任の時から直樹が優しく話を聞いてくれるから彼には自分から親しく話すことができた。だから直樹と二人で話すのは楽しかった。
また泉はよくドジをするのだが直樹はそれも笑って受け流してくれたり、フォローしてくれたりすることもしょっちゅうあった。
直樹は優しい笑顔で泉を見ている。今日はその笑顔に甘さも加わっているように思えた。
泉はドキドキがとまらなかった。
花火会場に着いた。
「座るところあるかな…」
泉はキョロキョロしながら座れるところを探した。
すると、
「水瀬先生!」
声をかけられ、見ると六年生のバスケ部の女の子が立っていた。
「森本さん…」
「先生も花火大会にきてたんだ」
森本香は隣にいた直樹を見て驚いた。
「え?紫原先生も一緒?え?デート?」
泉は頭が真っ白になった。
どうしよう…!
「あっちに中山先生と今橋先生もいるよ」
直樹がしれっと嘘をついた。
「え?そうなの?」
「二人で場所を探してくれてる」
「なーんだ」
香はがっかりしたように言った。
「家の人ときたんだろ?すごい人だからはぐれるとまずいんじゃないか?」
「そうだね」
香はそう言って振り返った。視線の先には両親らしき人がいて会釈をされた。
泉も慌てて会釈を返した。
「じゃあ、先生たちまたね」
香は手を振って戻っていった。
「……」
泉は直樹の顔を見つめた。
「ま、同じ市内なら来るか」
直樹が呟いた。
「紫原先生しれっと嘘つくんだもん」
泉が呆れたように言った。
「水瀬センセイは顔に出すぎ」
直樹はそう言うと泉の頬をプニっとつまんだ。
泉は赤くなった。
直樹は初任の頃からこうやって泉にちょっかいを掛けてきた。
でも泉は何故か直樹に触られても嫌ではなかった。
「でもまた子どもに会う可能性はないわけじゃないか…」
直樹が人混みを見渡して呟いた。
それは困る!
泉はある提案をすることにした。
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