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花火大会が終わり駅まで歩いていくと、駅は帰る人で溢れかえっていた。
「すげえな」
直樹が呟いた。
何とか改札を抜けると人がそこでもごったがえしている。
直樹は泉の右手を取って、
「水瀬サン迷子になりそうだから」 と言った。
「 な、ならないよ」
泉は顔を赤くして言った。
直樹は泉と手を繋いだまま、
「ほっとけないんだよ」と呟いて歩きだした。
泉は顔が赤くなったまま直樹と手を繋いでホームまで歩いた。
到着した電車も当然満員になった。
人にぎゅうぎゅう押される。
しかし直樹は上手に人をかき分けて泉を扉の方へ引き寄せた。
そして直樹が右手を扉に付けて丁度壁になって立ってくれている。
「紫原先生しんどいでしょ。あのいいよ。無理しなくて」
申し訳なくて泉は直樹を見上げて小声で囁いた。
「揺れたら俺にしがみついていいよ」
直樹は泉が言ったことと全然違う返事をした。
「キャッ!」
その時電車が揺れて泉は思わず直樹に抱き付いてしまった。
「ごめんなさい。」
泉が呟くと直樹は、
「いいよ」と言うとそのまま左手を泉の頭の後ろに回した。
抱き合ってるみたい。もう心臓が限界。
泉はどうしようもなくなって目を閉じた。
駅に着いた。直樹とはもう手を繋いではいなかったが家まで送ってくと言い並んで歩いていた。
暫く無言が続いたが、
「水瀬サン、お盆どうするの?」
と直樹が口を開いた。
「地元に帰って大学の友達と会ったりとかかな」
このお盆はのんびりと過ごすつもりだった。
「紫原先生は?」
「俺も帰省するかな」
「そっか」
家の前に着いた。
「紫原先生、今日はありが…」
泉は直樹の方を向こうとしたら、
「あ、あれ?」
足が引っ掛かってよろけてしまった。
「 危ない!」直樹が泉を抱き止めた。
「 何から何までごめんなさい。」
泉は情けない声を出した。
「……」
直樹は無言で両手を開いて泉の両頬を包んだ。
「熱い。水瀬サン酔ってる?」と呟いた。
「よ、酔ってない」
泉が答えると直樹はフッと笑って顔を泉に近付けて言った。
「俺、また抱き枕になった方がいい?」
!!
泉は慌てて離れて
「だ、大丈夫です!」と手を横に振った。
直樹は笑ってまた泉の頬を触ると、
「じゃ、また。お休み」
と言って背を向けて歩きだした。
「お休みなさい…」
泉は直樹が角を曲がって姿が見えなくなるまでその場を動けなかったのだった。
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