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二次会
今日は一学期の終わり終業式である。ちょうど金曜日で泉の学校は夜に食事会が予定されていた。碎けて言えば一学期お疲れ様会である。
泉はお酒を飲むのは好きだしひょっとしたら佑哉ともっと話せるかもしれないと期待していた。 会場には職場から直接向かっても良かったが、通勤服だと味気ないので一度家に帰り着替えることにした。
勤務時間終了と共に学校を出た。 駅に向かっていると、
「お疲れ様 ー」
後ろから声がして自転車で直樹が泉を抜かしていった。直樹は他県出身なので初任の時から一人暮らしをしている。家は学校から一駅の距離なので自転車通勤をしていた。自転車を自宅に置いて電車で会場に向かうのだろう。
と思っていたら直樹の自転車が止まった。こちらを振り返って見ている。
「紫原先生どうしたの?」
泉は直樹の側に駆け寄った。
「水瀬サン、今日の会そのまま直接行くの?」
「ううん、時間があるから家に帰って私服に着替えてから行こうと思って」
「ふーん」
何となく直樹の返事が嬉しそうな響きになった。
気のせいだよね。
「紫原先生は?」
「俺もワイシャツ姿だから着替えて行こうかな。この格好堅苦しいしな。」
紫原先生の私服姿、格好いいもんね。
泉は内心嬉しく思った。
「じゃ、また後でな」
直樹はいつものように泉に優しい笑顔で声を掛けて自転車に乗って家の方へ漕いで行った。
直樹はハッキリいってイケメンだった。
それに泉のことをいつも気にかけてくれて、優しくしてくれる。
でも残念ながら彼には初任の頃から遠距離の彼女がいた。
だから泉は恋愛対象にすることはできないと直樹に優しくされる度に自分に言い聞かせてきた。
今橋先生と仲良くなるチャンスだから。
泉も遅刻しないように足を早めた。
「乾杯!」
食事会も一次会が終わり二次会のお店に移動していた。
二次会は年齢が近い同士で行うことが多い。ベテランの先生たちはほとんど別の店に行ってしまった。
泉と一緒のメンバーは八人だった。予約していたわけではないので入った店は割りと混んでいて席は隣同士半分で分かれてくれと言われた。
たまたま順番に座っていったら席は佑哉、彩也香、直樹と一緒になった。
泉は内心嬉しくなった。泉はお酒を飲むと気が大きくなっていつもよりおしゃべりになる。 佑哉と話せるチャンスだと思った。
乾杯をし彩也香が口を開いた。
「まあ、いつもとメンバーは代わり映えしないけどいっか。」
「私はホッとしますよ。ベテランの先生方と話すのは緊張しますし。」
泉はすかさず言った。目の前に佑哉がいる。佑哉は微笑んで泉を見た。
何か話さないと…。
泉は必死に考えたが、
「せっかく一学期何とか終わって明日休みだけど暇だし」と彩也香が言った。
「彼氏とは?」
佑哉が聞いた。
彩也香は企業で勤める彼がいる。
今橋先生知ってるんだ。泉は驚いた。
「仕事だって。今橋先生は?土日どうするんですか?」
「あー」佑哉が言い淀んだ。
「彼女と過ごすのね。」彩也香が言った。
「まぁ」佑哉が呟いた。
え?
泉は目の前が真っ暗になった。
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