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いつだって、私は〝ふつう〟だ。
まず、名前。『佐藤えみ』。ふつう。いつでも笑っていますようにっていう由来はわかるけど、お母さん、もっとかわいい漢字でも使ってくれたらよかったのに。クラスのみんなと比べると圧倒的にパンチが弱い。
次に、頭のよさ。好きな科目は国語だけれど、通知表はどの教科も3。3より上も下もめったにない、まさにふつう。
そして、しゃべる内容も。なにを言っても印象に残らないから、「えみちゃん、あのとき一緒にいたっけ?」なんて言われる。
どこをどう見ても、ふつう。ふつうすぎて悲しくなる。
だから、〝一宮陽葵〟なんて名前の女の子がクラスに転校してきたときは、羨ましくてたまらなかった。
ぽっかりとあたたかい春の午後。一宮さんは朝礼台の上にぽつんと座って、校庭を走るみんなを見つめていた。
一宮さんはときどき体育を見学している。話によると、体が丈夫じゃないらしい。だから、お医者さんから運動を少し制限されているという。
はじめてそれを聞いたとき、かっこいいな、と思った。病弱な転校生。でも、性格は明るくて、髪はサラサラで、人気者で。全部が〝ふつう〟で構成されている私とはまるで正反対だ。
私も、一宮さんみたいに生まれたらよかったのに。
ぼんやりとそんなことを考えていると、急に一宮さんが振り返った。
「え。佐藤さん、そこでなにしてるの?」
うわ、バレた。
体が硬直する。ほとんど喋ったことのないクラスメイトが、授業中に背後から自分のことを見ていたなんて。これ、完全に不審者だ。
弁解するように、私は慌てて足元のサッカーボールを拾った。
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