8人が本棚に入れています
本棚に追加
晴れわたる青空。小鳥の歌に、花々の絶え間ないおしゃべり。輝くクリスタル城の上空を、グリフォンが円を描いて飛んでいる。
穏やかな陽光の下、石畳の道を二匹のウサギが二足歩行で歩いていた。
「俺は、何でこんな格好してるんだろうな……」
赤い半ズボン姿のウサギがこぼす。水色のスカートを穿いたウサギは苦笑した。
「相手は女子高生でしょ。キャラクター相手の方が話しやすいかと思って」
「それも、その子の意識が残っていれば、だけどな」
「……ええ」
二匹はお菓子の家が立ち並ぶ街を通り、雪の降り積もる小道を抜け、人魚たちが日光浴する河岸を進んで、バラ園に入る。色とりどりのバラが咲き誇る道の先、白いベンチに目当ての人物が腰かけていた。
ショートボブの黒髪。水色のワンピース。少女はブーティのつま先を見つめていたが、弾かれたように顔を上げた。近づいてきたのが二匹のウサギとわかり、目をみはる。
「バニヤン! バニーニ?」
――意識は残っているみたいだな。
ウサギたちはそっと目配せする。スカートのウサギが声をかけた。
「早川アリスさんですね? 私たち、このイマジナリーパークのスタッフです。私はカスタマーサービス推進部の江見、こっちは保安部の道下です」
「なんでバニヤンたちの恰好? もしかして『中の人』ですか?」
「いえいえ、これは仮の姿ですから。中の人? 何のことでしょう」
そらとぼけたバニーニ――江見はアリスのかたわらに膝をつく。道下は少し距離を取ったところで立ち止まった。
「あの、あたし、友だちとはぐれちゃって……。位置情報は立てたんだけど、連絡取れないし。他の人も全然いないし。これ、パークで何かあったんですよね?」
少女の声にパニックの気配がにじむ。道下は気をもんだが、江見の口調は抑制されていた。
「大変残念なことをお伝えしなければいけません……
早川さんは9月18日、学校のお友だちとご近所のVRセンターから当パークに接続されましたよね。その日、男がセンターに放火したのです。その火事がもとで、センターを利用中の6名が亡くなりました。そして早川さん……あなたも、その一人なんです」
最初のコメントを投稿しよう!