8人が本棚に入れています
本棚に追加
あれは、友だち三人とパレードを見ていた時だった。人混みの中で飛び上がり、きらびやかな衣装でダンスするキャラクターたちに夢中で手を振っていたとき、急にめまいがして立っていられなくなったのだ。
揺れてるのはあたし? それとも世界?
周りが騒がしい。ふらふらしながら通りの端に座り込み、めまいが去るのを待った。それからどれくらい経ったのか。ようやく顔を上げたとき、そばには誰もいなくなっていた。
『迷子になったら、マーカー立てて待機ね!』
笑いながら確認し合ったとき、こんな結末は考えてなかった。
アリスは駆けていた。二匹のウサギから無我夢中で逃げ出した後は、もうどこを走っているのかわからなかった。周りの景色は、動画のサムネイルのように次々と切り替わっていく。
耳元でごうごうと音がして振り向けば、すぐ隣を真っ黒な機関車が走っていた。やがて機関車は野生の裸馬の群れとなり、さらには金属的な光沢を帯びた無数の蝶となって飛び去った。
思い切り足を踏み込むと、アリスの体も浮かび上がる。妖精の粉をまとって空に飛び出した。魔法のじゅうたんをたちまち追い越し、煙のドラゴンのそばを通り過ぎると、彗星の尾をひいて木星と土星の間を一気に通過する。
見下ろせば、白く雪化粧するパークの山々が見えた。海上にはクラーケンが顔をのぞかせている。陽光に照らされて、ロケットの発射台と、砂漠のオアシスがきらきらと輝いた。
一週間かけても回り切れないと言われるVRテーマパーク、イマジナリーパークの全景をその目に収め、アリスは飛び続けた。
いつの間にかパークの中心部、クリスタル城の真上まで来ていた。城門前の広場は人気の撮影ポイントだ。今はそこに、見覚えのないものが置かれている。アリスは地上に降り立った。
白い布がかけられた大きな台の上に、様々な花輪やカード、ぬいぐるみがこぼれんばかりに並べられている。足もとには無数のろうそくが立てられ、プログラムで揺らめく永遠の炎を上げていた。
それは献花台だった。今のアリスには、それぞれの品物から送付者のコードを読み取ることができる。アリスは半ば無意識にそれらのコードをスキャンし、検索した。
目当てのものはすぐに見つかった。いっとう初めに置かれたのだろう、台の奧、大きなぬいぐるみと花束に挟まれていたメッセージカードを、アリスは引っ張り出して読んだ。
『アリス、大好き。いつまでも親友だよ。 菜月、優花、みのり』
一緒にパークに来ていた友人が、それを送ったのだった。短い文章をアリスは何度も読み返した。そしてカードを胸に抱き締め、静かに泣き始めた。
最初のコメントを投稿しよう!