瓦割り

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瓦割り

 演武会  瓦が拳を貫いて  滲み出る血が痛みを覚えず。  高校文化祭、好きな人が見ている前で行き場のない怒りを覚えた瞬間だった。  当初は旋風脚で板割りを披露するはずだったのに、先輩から当日になって急なご指名が。これはいじめか冗談かと思いながら恐る恐る先輩の顔を伺う。 「好きな人の前でいいとこ見せて来い」と真顔だ。 「拳が貫くところをイメージしろ!」と更に檄が飛ぶ。  幾重にも重なった瓦を前に、どのようにイメージしたら良いのか分からなかったが、やるしかないと拳を握りしめた。 「えい!」  コツン。  一瞬静まり返る会場。  瓦はまったく微動だしない。  気づけば拳の人差し指と中指から血がドクドクとしたたれ落ちていた。  脈打つ拳と怒りで何も聞こえなくなる。  会場がこの日一番の笑いの渦ができていたというのに。
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