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3
僕、お爺さん、犬の共同生活が始まった。
共同生活といっても、とくにこれといってやることはない。
日中、公園でぼうっとして、夜になって、お爺さんが買ってきた食べ物を食べ、寝る。それだけ。
お爺さんは、いつも砂で遊んでいた。
公園にある噴水広場から、ピンク色の小さなバケツで水を汲んできて、砂を固めて形を作る。
そのお爺さんは、朝起きてから、ずっとその作業のみに専念するのだ。
僕と犬は、そんなお爺さんの様子をぼんやりと眺めて、暇を潰す。
辺りが暗くなってくると、お爺さんは立ち上がり、どこかへ出かけていく。
そして、公園に帰ってくると、お爺さんはビニール袋から食べ物を取り出し、僕と犬に分け与える。
満腹になると、僕たちはベンチで横になり、そのまま眠りにつく。
そんな毎日。
僕は、そんな日々が退屈だとは思わなかった。
むしろ、楽しかった。
お爺さんは、砂遊びをしている間、表情を変えない。
せっせと手を動かし、いろんな方向から砂を観察し、整える。
きっと、その作業が楽しくて、面白くて仕方ないのだろう。
こんなにも夢中になっているのだから、つまらないわけがない。
僕はそう確信した。
そして、楽しそうなそのお爺さんを見ているだけで、僕まで楽しくなってくるのだ。
ある日、僕もそのお爺さんを真似して、砂遊びを始めた。
初めての砂遊びは、楽しかっただろうか。
あまり覚えていない。
ただ、夢中になって作業していたことだけは確かだ。
朝から始めたのに、気がついたら夕方だった。
出来上がったものは、よくわからない形をしていた。
たぶん、なにかを完成させようと考えて作業していたわけではない。
手を動かし、砂を整えることに夢中になっていただけだ。
食べるまえに、僕はお爺さんに手を洗ってもらった。
指が非常に沁みた記憶がある。
そのあとに食べた饅頭は、格別な味がした。
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