3

1/1
前へ
/6ページ
次へ

3

 僕、お爺さん、犬の共同生活が始まった。  共同生活といっても、とくにこれといってやることはない。  日中、公園でぼうっとして、夜になって、お爺さんが買ってきた食べ物を食べ、寝る。それだけ。  お爺さんは、いつも砂で遊んでいた。  公園にある噴水広場から、ピンク色の小さなバケツで水を汲んできて、砂を固めて形を作る。  そのお爺さんは、朝起きてから、ずっとその作業のみに専念するのだ。  僕と犬は、そんなお爺さんの様子をぼんやりと眺めて、暇を潰す。  辺りが暗くなってくると、お爺さんは立ち上がり、どこかへ出かけていく。  そして、公園に帰ってくると、お爺さんはビニール袋から食べ物を取り出し、僕と犬に分け与える。  満腹になると、僕たちはベンチで横になり、そのまま眠りにつく。  そんな毎日。  僕は、そんな日々が退屈だとは思わなかった。  むしろ、楽しかった。  お爺さんは、砂遊びをしている間、表情を変えない。  せっせと手を動かし、いろんな方向から砂を観察し、整える。  きっと、その作業が楽しくて、面白くて仕方ないのだろう。  こんなにも夢中になっているのだから、つまらないわけがない。  僕はそう確信した。  そして、楽しそうなそのお爺さんを見ているだけで、僕まで楽しくなってくるのだ。  ある日、僕もそのお爺さんを真似して、砂遊びを始めた。  初めての砂遊びは、楽しかっただろうか。  あまり覚えていない。  ただ、夢中になって作業していたことだけは確かだ。  朝から始めたのに、気がついたら夕方だった。  出来上がったものは、よくわからない形をしていた。  たぶん、なにかを完成させようと考えて作業していたわけではない。  手を動かし、砂を整えることに夢中になっていただけだ。  食べるまえに、僕はお爺さんに手を洗ってもらった。  指が非常に()みた記憶がある。  そのあとに食べた饅頭は、格別な味がした。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加