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 僕と犬は、あてもなくさまよった。  あるときは路地裏、あるときは林、あるときは廃墟、あるときは庭を宿にした。  いま思うと、よく誰にも通報されなかったな、と不思議に思う。  子供が汚い格好でぷらぷらと歩いているのだ。  面倒事に関わりたくない、と考える人としか、すれ違わなかったのだろうか。  その頃になると、僕も犬も衰弱していた。  とくに、犬は体が壊れかけており、毎日嘔吐していた。  しばらくすると、ついに、僕たちは歩けなくなった。  竹藪の中にポッカリと空いたスペースがあり、僕と犬はそこで横になっていた。  犬は、苦しそうだった。  何度も何度もクシャミをしていて、そのたびに、犬の全身は大きく震えた。  犬は舌を出して、僕を見つめている。  夕方になった。  犬は、まだ生きている。  でも、ほとんど動かない。  お腹が、僅かに膨らんだり、凹んだり。  それ以外に、動きはない。  僕は、そんな犬の様子を眺めながら、公園で動かなくなったお爺さんの顔を思い出していた。  お爺さんは、  苦しそうな表情をしていた。  そして、  ただ、  静かに、  音もなく、  口元を緩め、  安らかな表情で、  動かなくなった。  僕は立ち上がり、犬を置いて竹藪に入った。   頭の中で、映像が流れていた。  公園にいたときの記憶だ。  僕は、草むらで飛蝗を追いかけていた。  右手には、石が握られている。  そして、  僕は飛蝗に向けて石を振り下ろした。  数秒経過。  石を退けると、足をピンと伸ばしたあと、ゆっくりと地面に臥す飛蝗が見えた。  そのあと、いくら待っても、飛蝗は動かなかった。  あのお爺さんと同じだ。  動いていたものが、動かなくなる。  そうか、あのお爺さんは、潰れた飛蝗と同じようになったのか、そう僕は思った。  僕は、竹藪の中で、目的の物を見つけた。  それを抱えて、なんとか歩く。  途中、何度か休憩した。  辺りが暗くなって、僕はようやく犬の元に辿り着いた。  まだ、犬は生きている。  僕は、  両手で大きな石を持ち上げ、  犬のそばに寄った。  犬は、  舌を出し、  息を荒らげ、  黒い瞳で僕を見ている。  僕は、  狙いを定め、  石を振り下ろした。  ドサ、と大きな音。  犬のお腹は動かなくなった。  僕は、石を退けて、犬の状態を確認したあと、竹藪から出た。 
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