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エアコンを入れるにはまだ早く、しかし、窓から吹き込む風が止めば少し汗ばむ季節。
六時間目の日本史の授業中、私は窓から入り込む初夏の風を感じながら完全なる上の空でいた。
次にチャイムが鳴り、入れ替わりで担任の佐伯先生がやって来て短いホームルームが終われば、私は職員室に行く。そう考えるだけで心臓がうるさい。
思い返せば三年の五月になる今まで、私はただ白井先生のことを見ているだけだった。それだけでよかった。
話すのは、今日みたいな本当に必要最低限の言葉のみ。
それも一か月、いや、一学期の間に数える程度。もしかしたら、高校に入学してから十回も話したことがないかもしれない。
それがいきなり居残り授業。しかも、白井先生と二人きり?
そんな余計なことを考えてしまい、顔が火照ってきた。
もうどうしよう?って、ただ勉強を教わればいいだけなのに。変に意識してしまう気持ちを自分で上手く抑えられない。
「次はいけるか? 難しそうなら今日の放課後、時間を取るが」
白井先生にそう訊かれた時、私の胸はわかりやすく弾んだ。
先生ともっと一緒にいられる? それも、いつもより近い距離で……って。
私、初めて白井先生に近づきたいと思ったかもしれない。
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