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私が思わず岩倉くんの方を見た時、同じタイミングで川嶋さんという女子が飛んできて岩倉くんの机をバンとたたいた。
「えっ、今なんて? 白井先生が、なんて!?」
川嶋さんの反応を見て、金谷さんがうなずく。
「あ、そっか。川ちゃん、ファンなんだったね。白井の」
「はぁっ、マジで? あんなのの、どこがいいわけ?」
眉をひそめる岩倉くんを川嶋さんがにらむ。
私もなんとなく知っていた。川嶋さんの視線や態度を見ていればわかる。白井先生に好意を寄せているって。
川嶋さんはベリーショートの似合う、活発な女の子。だけど、白井先生と話している時はとても女の子らしい雰囲気で可愛くなる。
「白井先生は格好良いの。それより、今の話! 詳しく教えてよ」
「いや、そのまんまだって。昨日の予備校帰りに見たんだよ、夜。白井って、たしか26だろ。同じ歳くらいの女と腕組んで歩いてた」
「嘘、見間違いじゃないの? どんな感じの人?」
「いや、あれは白井だった。スーツ着てたし。女の顔はよく見えなかったけど、なんかこう、白井にもたれかかってる感じだった」
「うわー、そんなのやだ!」
私の心の代弁を、まるで川嶋さんがしてくれているようだった。
そういえば、白井先生のプライベートなんてほとんど知らない。まるで知りたくない事柄にフタをするようにして、私は今まで気にしないようにしてきたのかもしれない。
現実には気づかないふりをして、ずっとただ見つめていた。
でも、こうしてほんの少しでも白井先生と話す機会が増えたり、噂を聞いてしまったりすると、気になる。知りたくないけど、やっぱり知りたい。
白井先生のことを、もっと――。
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