安倍聡明くんはスマホが使えない

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 僕は御札を書くための所作を一つずつこなしていった。御札の効能は表面に書かれた文字だけに依るものではない。その過程すべてが霊験を生むのである。 「臨兵闘者皆陣烈在前!」  僕は筆を振り下ろした。  オニノメを狙い撃ちする呪文を書き入れる。  言ってみれば僕の書く御札はオーダーメイドだ。使用する対象や状況に合わせて一枚一枚をその場で手書きする。 「出来た。これを十和田くんに見せればいい」 「ありがとう。流石は安倍晴明の子孫ですね!」  芦屋道満子は僕が書き上げた御札をクリアファイルに入れると、韋駄天のような速度で書道室を出ていった。  僕はしっかりと後片付けを行い、机の上を部活用の道具と入れ替えた。  ようやく書道室が静かになった。  芦屋道満子は去り、トラブルも解決し、ようやく静謐な時間が戻ってきた。  僕は穏やかな気持ちで半紙に臨んだ。さあ、部活を再開しよう。  と思いきやドアが再び強く開き、芦屋道満子が戻ってきた。 「聡明くん、大変です!」 「なんだよ、また書き損じたじゃないか! 僕はいつになったらまともに部活動ができるんだよ」 「御札が使えなかったんです」
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