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当麻が言ったとおり飲めないと固辞していた母だがけっこうな量のワインを飲んでいた。
酒に強いといってもそれだけ飲めば酔うだろう。当麻の表情も緩んでいる。酔えなかった蒼はそろそろ二人から酒を取り上げようとタイミングを伺っていた時、母の声色が変わった。
「お父さんを殺したの当麻だろう」
喉から絞り出したような母の声を当麻は平然と受け流す。母が何を言い出したのか蒼の理解が追いつかないまま母と当麻を交互に見た。
「だから会いに来たんでしょう?蒼も誘って最後に食事をして、これからどうするの?」
母は当麻を見ないで目の前のグラスを見つめている。当麻はそっと腕をのばして母のグラスを取り上げた。
「こぼすよ」
「こんな真剣な話をしてんのに酔ってない。今さら事件起こしてどういうつもり」
母の頭が円を描くように揺れている。当麻は母の寝室から枕と毛布を持ってきてそこに母を横たえた。
「当麻…」
「親の勘ってすごいな。俺なんにも言ってないのに」
蒼の隣に戻ってきてまだワインが残っているグラスに手をのばす。そのグラスを蒼の手が押さえた。
「僕にも警察の尾行がついてる。もう逃げ切れないよ。ホントにどうするの?まさか自首…」
「物事はそう簡単じゃない。父さんを殺したいと思っていた人間は俺だけじゃないよ」
「え…?」
「敵は多い。そして依頼をこなして俺は報酬を受け取っている。子どもの頃とはいえ人を刺した人間がまともな仕事なんか就けないしな」
なんだか論点をはぐらかされているような気がする。まわりの状況なんかどうでもいい。当麻が殺人犯という事実に変わりはない。
「だったら…余計逃げられないじゃないか。僕は当麻さえいてくれればほかの事なんかどうでもいい。僕を巻き込んだって言ってたよね。ふたりでどこか遠くに逃げよう」
「母さんを置いて?」
「どうでもいいよ!」
「しーっ。せっかく潰したのに起きるだろう」
当麻は自分の唇を指で押さえた。前にどこかでこんな事があったなと蒼はぼんやり思い出す。やがて瞳からすうっと涙が流れて赤く火照った頬を伝って落ちていった。
「…やっぱり、当麻は嘘つきだ」
「それが嫌なら忘れろって言ったぞ。ここから先はお前次第だ」
「……」
当麻の味を自分に覚え込ませておいて今さら突き放されても蒼は混乱するしかない。
「そうだな、お前は俺から離れられないよな」
弟の葛藤などお見通しな当麻は優しく蒼の頭を撫でながら残りのワインを飲み干した。Vネックからのぞく鎖骨に蒼はひたいを押しつける。当麻の匂いがして動揺していた心が少し落ち着いた。
「俺たちはふたりきりだもんな……」
どちらからともなく蒼と当麻はお互いの唇を貪った。すぐそばで母親が眠っている状況が背徳感を高揚させてふたりの行為は止まらない。さすがにそれ以上は進まなかったが、欲情した色を残した瞳が最後までを求めて濡れている。
当麻は無言で立ち上がって蒼の腕を引っぱり、昔使っていた部屋のベッドに押し倒した。
「あ…当麻……」
「静かに…」
当麻の指が服の中に入ってくる。蒼は自分の袖を噛んで声を抑えようとするがその姿が余計当麻を燃え上がらせていつもより刺激を強くしてしまう。
「ん…ふ……、ぅ……」
結局どれだけ否定してもふたりはお互いを求めあい一緒に堕ちていく関係を断ち切ることは出来そうになかった。
「こんな所で…」
母は本当は起きているかもしれない。兄弟でこんな関係になっている事を知ったら絶望の上乗せになってしまう。
「どうでもいいんだろ?」
真っ暗なはずなのに当麻の瞳に宿る鋭い光が見える。言い返せないまま固まっていると当麻は指を絡めてきた。
「…ぁ…ぁ……とう、…ま……」
かすかな喘ぎ声を漏らして蒼の体が揺れる。アルコールで理性が消えた蒼は何も抵抗できないまま当麻にその身を貫かれて気持ちよさそうに身をよじった。
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