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慣れない生活のストレスを父は酒で紛らわせていたようだった。 ある夜当麻とお揃いのパジャマを着て一緒に寝ていると玄関のほうでがたがたと大きな音がして蒼は目が覚めた。 「…お父さん?」 気持ちよさそうに眠っている当麻を起こさないようにそっと襖を開けると、いつものように玄関先に倒れている父の姿があり、蒼は父の寝室から毛布を取りに向かう。 「おかえりなさい」 自分より大きな体に一生懸命毛布をかける。その日は少し苦しそうに顔を歪めている父を見て違和感を覚えた。 「だいじょうぶ?」 急に不安がこみ上げてきて思わず父の体を揺さぶると、父は目を開けてゆっくり上半身を起こした。 「ごめんなさい」 自分のせいで起こしてしまったと思い蒼は謝る。どうしていいかわからずおろおろしていると父は蒼の体を抱き上げて自分の寝室に入った。 「いつもありがとな蒼」 そのままベッドに倒れ込み小さな体を横抱きにして父は目を閉じていた。きっとこのまま眠ってしまうだろう、そうしたら当麻の所に戻ればいいと思ってしばらくじっとしていた。 「お前は朋美にそっくりだ」 開かないと思っていた目が開いて父は母の名前を口にした。蒼からみれば母親だが、父にとっては女だった。その生臭さに幼い蒼は気持ち悪くなる。嫌な気分になってベッドから降りようとすると父は強い力で蒼の腕を掴んで引きずりあげた。 「……」 怖くて動けなくなった蒼に、当麻に似た父の顔が近づいてくる。父の唇がそっと自分の唇に触れたが蒼には何が起きているのかわからない。 当麻なら知っているかもしれない。今すぐ聞きにいきたい気分になったが大人の力で体を押さえつけられているこの状況から幼い体が逃げ出すことは不可能だった。 暗い寝室で父の大きな手が自分の幼い体を這っているのがわかる。くすぐったさに身を捩るが一体これが何なのか理解できない。しばらくじっとしていると父の手がパジャマの中に入ってきて下半身をいじり始めた。 「…おとうさん……?」 まだ未成熟なそれを執拗に刺激される。だんだん固くなってきた気がして不思議な感覚だった。 「気持ちいいだろう?お前はあの淫乱な女によく似ている。こうされるのが好きなはずだ」 知らない言葉がたくさんあって意味がわからない。あの女ってお母さんのこと?いんらんってどういう意味?大好きな父がどうしてこんな下卑た言葉を吐くのか全然わからない。 我慢していればいい。きっと新しい遊びなんだろう。僕は好きじゃないけどお父さんが僕に悪いことをするわけがない。 「お…とう…さ……ん……」 気がつくと父の頭は蒼の股間に突っ伏して執拗に小さな性器を貪っていた。それがどういう行為なのかわからないまま蒼は不思議な感覚に酔っていた。 「ごめんなさい……」 いつしか蒼の瞳から涙が溢れて、ふっくらした頬をつたって流れていく。一体何に謝っているのかよくわからない。 父の行為はずいぶん長く続いた気がする。いつの間に眠ってしまったのか、朝目が覚めた時は当麻の横に転がっていて、父は何事もなかったかのように朝食を作っていた。 「おはよう。当麻起こしてきて」 蒼の姿に気がついた父は普段と変わらない様子でまだ寝ている兄を呼んでくるように言った。 「…今日休みだよ?」 壁の柱に片手をついて蒼は気だるそうに答える。 「え?」 困りながら笑っているような表情で父は振り返って蒼を見た。そこには何の感情もない、でも今までの蒼とは違う雰囲気を纏った子どもがいた。 パントマイムだった。模範的な父を演じていた男はそのプレッシャーに押し潰されて酒の力で本性を現した弱い男だった。それでもまだ蒼は父が悪い事をしていると理解できる能力はなかった。きっと大人の愛し方なんだろう。自分が幼くて子どもだから今はよくわからないけど、いつかわかるだろう。 「おはよ」 その時珍しく自分で起きてきた当麻が薄い笑みを浮かべて立っていた。 「あれ、珍しいね当麻。お昼まで寝てるかと思った」 蒼は弟の顔になって屈託のない顔で笑いながら冷蔵庫を開けてジュースを取り出した。 「なんか寝苦しくて目が覚めた」 「あーっちょっとお!」 グラスに注ごうとしていた蒼からペットボトルを奪い取ってそのままゴクゴク飲みだす当麻。そこからペットボトルを取り返そうとする蒼で奪い合いが始まる。 いつもなら当麻を叱る父だが、ふたりのやりとりを心ここにあらずの状態でぼんやり眺めているだけだった。結局こぼしてふたりジュースをかぶる羽目になったが父は「シャワー浴びておいで」と言ったきり黙って濡れた床を拭いていた。 「うわー気持ちわり、ベトベトする」 浴室で頭からかぶったジュースの不快感に当麻が顔を歪めている。 「当麻が行儀悪いんだよ。これはあやまらないからな」 蒼の抗議を無視してシャワーの温度を調節している当麻に、久しぶりに文句を言う。適温になったところで蒼にお湯をかけてくる。 「お前けがしてんの?」 当麻の視線をたどって自分の体を見ると、小さな痣のようなものがふとももの内側にたくさん散らばっていた。 「え?なにこれ」 なにかにぶつかった覚えはない。しばらくじっと眺めていたが答えはわからなかった。 「おまえガキだからな」 兄とはいってもお互い保育園に通う年でどうしてそんな言われ方されなきゃいけないんだろう。 「いいもん、お父さんに聞いてくる」 「それはやめとけ!」 何故か焦りだした当麻を置いて、蒼は裸のまま浴室を飛び出した。
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