4. 住宅街

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4. 住宅街

 歩道橋の先は住宅街だった。  どこかから犬の吠え声が聞こえたが、あとは静かで、角を左右に折れながら、狭い坂道を上っていく。  道の両側に隙間なく並ぶ家々。  休日の一家団欒の時間も終わり、早々に自室へ引っ込んだ子供達を尻目にリビングで一人テレビを見る父親――そんな時間が塀の向こうの一戸一戸の中で流れているのだろうか。  共同のゴミ捨て場には、自治体指定の黄色のゴミ袋が幾つか、カラス除けのネット下に転がっている。  少し広い道に出た。  緑色のアスファルトに「スクールゾーン」と白抜きで書かれた坂の頂上に、小学校が見える。  月曜日の朝には、ランドセルを背負った子供達がこの坂を上って学校へと向かい、その傍では、緑色のゼッケンを着た高齢者が子供達を誘導する――そんな光景が目に浮かんだ。  校門傍の掲示板には、「清らかな挨拶 正しい行動 美しい人格」という教育目標が貼られていた。  それを見て、自分の通っていた小学校にも似たような言葉が貼られていたことを思い出すが、当時はこんな言葉を意識して過ごしていなかったし、今は信じるはずもなかった。
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