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坂を下り始める。ビーグル犬を散歩させる老女がいた。
突然、猛烈な勢いで吠え始めた犬が、老女を引き倒し、突進してきた。
かわしながら犬の胴に腕を入れ、抱え上げる。
抱え上げられた犬はキョトンとした様子で一瞬おとなしくなったが、すぐに腕の中で暴れ始める。
「随分凶暴なワンちゃんですね」と笑いながら、老女に犬を返そうとする。が、転倒した際に頭でも打ったのか、老女はぴくりともしない。
大丈夫ですか、と声をかけながら歩み寄り、手を伸ばそうとするも、腕の中で暴れる犬が邪魔で、手をかけることができない。
仕方なく、犬を地面に降ろしてやる。けれども、降ろされるや否や、俺の前に立ったビーグル犬は、唸り声を上げ始める。
「何がそんなに怖いんだよ」と語りかけた直後、足に噛みつこうとした犬を、俺は再び抱え上げる。
「ったく、本当に馬鹿犬だな。俺に喧嘩を売る前にご主人様を心配しろよ」
そう話しかけるも、歯を剝き出しにした犬は暴れ続ける。
「俺ほど清く正しく美しく生きている人間もいないっていうのに、失敬なやつだ」
犬に向かってそう言ったところで、この状況がどうにかなるわけでもないのだが、少しだけ気が紛れたのは事実だった。
「一体アイツらは何者なのか? なぜアイツらは俺を追いかけてくるのか?」
少しの間、真剣に考えてみたが、まるで見当がつかない。
暴れ疲れたのか、ようやく静かになった犬を、地面に降ろしてやる。
途端に坂の頂上へと駆け出す犬。
そのリードを何とか掴み、顔を上げる。
ヤツらがいた。
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