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終戦後、「自分は預言者だ」と言いながら、犬や猫、ニワトリなど様々な動物を引き連れて街々を歩きまわっていた浮浪者の男性。男性は、市民からの通報で放り込まれた留置場で、心臓発作を起こして突然死したのだが、それと同時刻に、保護されていた動物達も一斉に倒れて死んだという――が、俺はそんな人間じゃない。
来年には大学を卒業し、企業に就職して結婚、子供を作り、郊外にマイホームを構え、定年まで勤めあげることができればいいなということを考えている大学生だ。
それなのに、たまたま友人の舞台を観に行っただけで、こんな状況に放り込まれている。
クソと呟きながら、角を左に曲がり、自動車も通れない程の狭い路地に入る。
両側には、写真でしか見たことのない昭和の長屋を思い起こす家々が並んでいる。
突然、その内の一つの引き戸が開けられ、三歳位の男の子が顔を出した。
目の前を駆け抜けていく俺の姿をぼんやりと眺める男の子の表情は、何かを感じていても、まだ何も知らないというものだった。
だからこそ、恐らくこの子はまだ何もわからないし、何も信じていないのだと思う。
一人で何も決めることもできなければ、行動することも許されない、ピュアな頭でっかち――そんなつまらないことばかり考えている自分に気づき、唾を吐き捨てる。
アスファルトにできたシミを見て、ほっとする。
だが、どうしてそんな風に感じたのか、自分でもよくわからなかった。
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